目次
・聖火
1「マシューの見てきた世界」Matthew Chozick
<キーワード>エッセイ 日本在住アメリカ人 好奇心 ユーモア
<あらすじ>日本在住アメリカ人のマシューが語る、日本の話、アメリカの話。
<感想>p100から始まる「死」についてのエッセイが印象に残りました。人々がどうやって人生に意味を見出すか、マシューはどう考えているか。ユーモアを交えながら真面目に話すところが気に入りました。
2「きみがぼくを見つけた日」Audrey Niffenegger
<キーワード>タイムスリップ 恋愛
<あらすじ>愛する人は未来からやってきた。やがてくる別れを知っていた―。初めての出会いはクレア6歳、ヘンリー36歳。未来から来たヘンリーが、突然クレアの前に姿を現わした
<感想>
・心理描写がリアルで、登場人物が実在しているかのように感じます。
・悲しい結末が分かっていても読んでしまう。読後は切ない気持ちになります。
3「十二本の毒矢」Jeffrey Archer
<キーワード>短編小説 イギリス
<あらすじ>技巧を凝らしたおちのあるもの、さりげない筆致でしみじみとした読後感を抱かせるものと、さまざまなタイプをイギリスの伝統的な短編小説の手法で語る
<感想>
・どの短編も最後はハッと驚きます。
・「パーフェクト・ジェントルマン」ボードゲームの一流プレイヤーだった男は、なぜ格下の相手に負けたのか。男の謙虚さに感じ入りました。
4「十四の嘘と真実」Jeffrey Archer
<キーワード>短編小説 イギリス
<あらすじ>14編のうち9編は事実に基づく。読む者を手玉に取り、トコトン楽しませる、天性のストーリーテラーによる短編集。
<感想>
・「終盤戦」親戚のうち遺産相続にふさわしい者を見極めるため、男は破産を装う。ストーリーが巧み。短編なのに映画を見ているよう。
5「コスモポリタンズ」Somerset Maugham
<キーワード>短編 世界旅
<あらすじ>舞台は、ヨーロッパ、アジアの両大陸から南島、横浜、神戸まで―。故国を去って異郷に住む“国際人”の日常にひそむ事件のかずかず30篇。
<感想>
・どの短編もモーム自身が語り手です。彼は物語を通して、人間の不合理を面白おかしく伝えています。彼は人間を愛していたのでしょうね。
物もらいp282
まえまえから、私はいくどそれを嘆いていたか知れなかった。なにしろ、私には、それこそ、やりたいことの半分でもするに必要な時間の半分も余裕がなかったからだ。自分の時間といえるものに、このまえありつけたのは、いったいいつのことだったか、ちょっと見当もつかないくらいだ。たった一週間でもよいから、なにもしないで、呑気にかまえていられたら、それこそどんなに楽しいことだろう、といつも思ったものだった。世間の人は、たいてい、忙しく働いているか、さもなければ遊びほうけているものだ。(中略)ところが、私はぜんぜんなんにもしないで、ただぽかんとしている自分を描いてみるのだった。午前中ものらりくらり、午後もぐずぐず、日が暮れてからも、のんべんだらりんで、一日をおわりたいのだ。(中略)時間というものは、まったくあっというまに過ぎ去って、ふたたびとり返しのつかぬものだからこそ、人間のあらゆる財産のなかでも、いちばん貴重なのだ。だから、時間の浪費ほど、人間にできるぜいたくな散財はないわけである。
実に愉快な文章。こんな浮世離れした考えが好きです。
物もらいp284
私はかねがね、なんとか都合をつけて、自分で好きなことのできるひまがつくれたら、どんなにいいだろうと空想していたものだが、さて、そのばあいのように、とつぜんなにもすることがなくなって、そのひまをなんとかうまく利用しなくてはならないような羽目にぶつかると、ハタと当惑してしまった。それはちょうど、空と水ばかりの太平洋を航海しているとき、偶然、船の中で近づきになった人にむかって、ロンドンへおいでになるようなことがあったら、どうぞ私の家へお泊り下さい、といったところが、忘れた頃になって、その人が、なんの前ぶれもなしに、うんとこさ荷物をたずさえて、ひょっこりやってきたようなものだった。
暇はほしいけど、いざ与えられると戸惑ってしまう。モームの気持ちはよく分かります。私も大学生のとき長期休暇を持て余していました。
「コスモポリタンズ」はどの短編もモーム自身が語り手です。彼は率直な性格だとわかります。はっきりと物を言い、恐れるところがないから。読んでいて気持ちいい。夏目漱石の「坊っちゃん」を思い出します。率直さ以外では全然似ていないけれど。モームはすぐれたユーモアのセンスの持ち主です。だんだん作者が好きになる。そんな本でした
6「モーム短編集(上)」Somerset Maugham
<キーワード>人間とは
<あらすじ>長篇小説「人間の絆」「月と六ペンス」の作家サマセット・モーム(1874-1965)は、鋭い人間描写で読者を魅了する短篇小説を数多く残している。
<感想>
・「手紙」貞淑な女性レズリーはハモンドを射殺した。正当防衛で無罪になるはずだったが・・・。人間のなかに眠る狂気を見ました。「この人は人間ではなく般若ではないか」という瞬間、私も見たことがあります。ゾッとするお話です。
7「柔道部物語10・11」小林まこと
<キーワード>高校柔道部
<あらすじ>岬商業高校に進学した三五十五は、ふとしたことがきっかけで柔道部に入部する。三五は背負い投げを武器に、全国大会をめざす。
<感想>
・小学生のときに祖父の家で何度も読みましたが、結末を知りませんでした。スポーツ漫画はバカにできません。面白かったです。
8「月と六ペンス」Somerset Maugham
<キーワード>芸術 ゴーギャン 浮世離れ
<あらすじ>美に取り憑かれた画家の生涯
<感想>画家ゴーギャンをモデルにした作品なのですが、彼より脇役のほうが読みどころ。特にダーク・ストルーブ。善良だが滑稽でみんなの笑いもの、優れた審美眼をもっているが芸術家としては凡庸。いつも貧乏くじを引く彼は、人間っぽくて親しみを感じます。
9「モーム短編集(下)」Somerset Maugham
<キーワード>人間とは
<感想>「サナトリウム」結核を患う人が集まる療養所。彼らの人間模様を描く。
・人々が死を目の前にして、それぞれどんな態度をとるのか、興味深く読みました。
10「お菓子とビール」Somerset Maugham
<キーワード>小説 英国 回想
<あらすじ>語り手の頭に蘇る、作家とその最初の妻と過ごした日々の楽しい思い出……。
<感想>回想部分は読み応えがあります。
11「英語の発想がよくわかる表現50」行方昭夫
<キーワード>岩波ジュニア新書
<あらすじ>わかっているようで、実は英語学習のつまずきにもなるポイントを、楽しいエピソードをまじえながら解説
<感想>高校で習った文法がより深く理解できます。
12「監督不行届」安野モヨコ
<キーワード>漫画 コメディ
<あらすじ>漫画家・安野モヨコと夫・庵野秀明のオタクな日常を赤裸々に描く。
<感想>
・「シュガシュガルーン」の安野モヨコが「エヴァンゲリオン」の庵野監督と結婚していたなんて。
・庵野さんによるあとがきは感動します。
13「聖火」Somerset Maugham
<キーワード>戯曲 家族 推理仕立て
<あらすじ>第一次大戦後の英国上流家庭。事故で半身不随となった長男が、ある朝、謎の死を遂げる。他殺か、自殺か。動機、方法は?
<感想>
・家族は温かい面だけではない。緊張感のある作品。アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」や「春にして君を離れ」を思わせます。
14「フレデリック夫人」Somerset Maugham
<キーワード>戯曲 コメディ
<あらすじ>フレデリック夫人はアイルランド人の未亡人で、深刻な借金を抱えている。まわりには様々な思惑をもった男性たち。崖っぷちの彼女が繰り広げるコメディ。
<感想>
・フレデリック夫人は危機にあっても冷静。戦略的ではないのにうまくその場を切り抜けるカリスマ的な女性です。憧れます。
・彼女の魅力にあてられた男性たちは、見ていて可笑しいです。
15「モーパッサン短篇選」Guy de Maupassant
<キーワード>フランス
<あらすじ>モーパッサン(1850-1893)は19世紀フランス文学を代表する短編小説の名手。300篇以上にも及ぶ短篇作品のなかから15篇を収録。
<感想>
・読んだあとに、少し悲しい感じが胸に残ります。
16「嘘ばっかり」Jeffrey Archer
<キーワード>短編小説
<あらすじ>・「だれが町長を殺したか?」町長殺害事件を捜査する刑事の前に現れたのは、犯行を自白する51人もの町民だった。
<感想>
・舞台はイタリアの田舎町。風景や村民の描写がうまい。ストーリーも巧みで気づかないうちに騙されていました。
・付録「次作についてのお知らせ」もおすすめ。
17「15のわけあり小説」Jeffrey Archer
<キーワード>短編小説
<あらすじ>「メンバーズ・オンリー」伝統あるゴルフ・クラブの正会員を目指す男の人生
<感想>
・勇敢で責任感の強い主人公が好きになりました。
・ジャージー島の描写も気に入っています。作者は世界中を旅しているに違いありません。アイルランド、フランス、イタリア、アメリカ、インド、どこも魅力的に浮かび上がってきます。
18「さよならを待つふたりのために」John Green
<キーワード>アメリカ 恋愛 がん
<あらすじ>ヘイゼルは16歳.甲状腺がんが肺に転移して,酸素ボンベが手放せないまま,もう三年も闘病をつづけている.骨肉腫で片足を失った少年オーガスタスと出会い,互いにひかれあうが・・・。
<感想>
・高3で初めて読んだときはそれほど感動しなかったけれど、なぜか様々なセリフを思い出すので再読しました。いいお話ですね。悲しいけど。綺麗ごとではない、彼らはリアルな感情をもっています。
・ヘイゼルとオーガスタスの独特の考え方も好きです。特にお気に入りのシーン。何度も思い出します。
オーガスタス・ウォーターズはポケットに手をつっこみ、よりによって、タバコの箱を取りだした。(中略)「火をつけなければ、タバコに害はない」オーガスタスがいった。車は縁石のすぐそばだ。「火をつけたことはない。これは象徴なんだ。自分を殺す凶器を歯のあいだにくわえて、だけど殺す力は与えない」
19「ペナック先生の愉快な読書法」Daniel Pennac
<キーワード>読者の権利10ヶ条
<あらすじ>フランスのベストセラー作家がユーモアたっぷりに書く
<感想>
・読者の権利10ヶ条・・・読まない権利、飛ばし読みする権利、最後まで読まない権利、読み返す権利、手当たりしだいに何でも読む権利、ボヴァリズムの権利、どこで読んでもいい権利、あちこち拾い読みする権利、声に出して読む権利、黙っている権利
・本は自由に読んでいいんだ、と思い出させてくれます。
20「ミッテランの帽子」Antoine Laurain
<キーワード>小説 フランス
<あらすじ>舞台は1980年代。時の大統領ミッテランがブラッスリーに置き忘れた帽子は、持ち主が変わるたびに彼らの人生に幸運をもたらしてゆく。うだつの上がらない会計士、不倫を断ち切れない女、スランプ中の天才調香師、退屈なブルジョワ男。まだ携帯もインターネットもなく、フランスが最も輝いていた時代の、洒脱な大人のおとぎ話。
<感想>・調香師のお話が特に面白かったです。
21「終りなき夜に生れつく」Agatha Christie
<キーワード>ミステリ 英国
<あらすじ>その土地は呪われた〈ジプシーが丘〉と呼ばれていた。だが、僕は魅了された。なんとしてでもここに住みたい。そしてその場所で、僕はひとりの女性と出会った。彼女と僕は恋に落ち、やがて・・・。
<感想>
・クリスティはミステリのトリックで知られていますが、私はむしろ彼女の人間観察眼を評価したい。人間の暗く恐ろしいところをよく描いています。「春にして君を離れ」は殺人は起きないのにゾッとするお話でした。
・「信頼できない語り手」によって物語が進みます。カズオ・イシグロがよく使う手法です。
22「ゼロ時間へ」Agatha Christie
<キーワード>ミステリ 英国
<あらすじ>残忍な殺人は平穏な海辺の館で起こった。殺されたのは金持ちの老婦人。金目的の犯行かと思われたが、それは恐るべき殺人計画の序章にすぎなかった―人の命を奪う魔の瞬間“ゼロ時間”に向けて、着々と進められてゆく綿密で用意周到な計画とは?
<感想>目立たない登場人物も個性豊か。それが物語に厚みを与えています。
23「ロケットボーイズ2」Homer Hickam
<キーワード>1959年米国 炭鉱 回想録
<あらすじ>勉強もスポーツもできない落ちこぼれ高校生だったサニー。仲間たちとロケット作りをはじめてからは、ちがう自分になれたはずなのに―ロケットは腐蝕の問題でいきづまる、女の子とはすれちがう、相変わらず父はぼくを認めてくれない。人生はどうして、こんなにままならないんだろう?と悶々とする毎日だ。そんなとき、パレードの失敗を機に、母は町の人々から孤立し、父は炭鉱組合との対立を深める。そして炭鉱町はじまって以来の分裂の危機が―。
<感想>1巻とはまた違った良さがあります。主人公に加え、まわりの人々を丁寧に描いている。サニーを通していろんな感情を味わえる作品です。
24「モスクワの少女カーチャ」Cathy Young
<キーワード>ソ連 1960~80年代 回顧録
<あらすじ>モスクワのユダヤ系家庭に生まれた少女カーチャが、家族と共にアメリカに移住するまでの17年間を振り返って綴るソビエトの日常生活。規則と党の思想教育で縛られた学校生活、教師やティーンエイジャーの生態、国家統制社会の現実と矛盾、祖母や両親の体験から聞く暗い時代のことなどを、豊かな感受性とユーモアで生き生きと描く。
<感想>
・ソ連での暮らしをリアルに感じられます。学校、友達、買い物、音楽、共産党、レーニン時代など。面白かったし勉強になりました。
25「不屈の小枝」Lauren Kessler
<キーワード>日系アメリカ人 第二次世界大戦
<あらすじ>20世紀初頭、アメリカン・ドリームに魅せられて、岡山からオレゴンに移民したヤスイ・マスオ一家。強制収容所送りなど様々な人種差別と闘いながら、尊敬されるアメリカ人になろうと苦闘したヤスイ家三代の記録。
<感想>
・山崎豊子さん原作「二つの祖国」のドラマを見て、日系アメリカ人の歴史に興味を持ちました。移民は大変な苦労をするものだと思いますが、敵性外国人となった彼らが直面した壁はそれ以上のもの。彼らの苦しみに心が痛みます。
26「キシマ先生の静かな生活」森博嗣
<キーワード>
<あらすじ>大学生の僕が尊敬するキシマ先生。先生とマドンナをめぐる物語を僕の視点から描く。
<感想>
・短くてすぐに読み終えるのに心に残ります。静かで目立たないキシマ先生を理解している主人公がいい案内人です。
27「ナショナル・ストーリー・プロジェクト1-2」Paul Auster編
<キーワード>アメリカ
<あらすじ>ラジオ番組のためにオースターが全米から募り、精選した普通の人々の実話179話。彼の小説のように不思議で、切なく、ときにほろっとさせられ、ときに笑いがこみ上げる。
<感想>
・小川洋子さんの「物語の役割」で紹介されていたのがきっかけで大学生のときに読みました。今回は二回目です。
・本編はもちろん良いが、ポール・オースターによる前書きがすばらしい。
とりわけ投稿が多かった時期には、一気に六十か七十の物語を読む破目になった。そんなときは、コテンパンに叩きのめされたような、精力もとことん吸い取られた気分で椅子から立ち上がった。私は様々な感情を相手に格闘し、リビングルームには何人もの見知らぬ隣人がキャンプを張り、ありとあらゆる方向から無数の声が私めがけて飛んできた。そうした晩には、二時間か三時間のあいだ、アメリカの全人口がわが家に上がり込んできた気分だった。アメリカが歌うのが聞こえる、とホイットマンは言った。私はそうではなかった。アメリカが物語を語るのが私には聞こえたのだ。
心を病んだ人々からの投稿を読んでいると、ハッとさせられる印象的な一節も多かった。昨年の秋、プロジェクトがそろそろ軌道に乗りかけていたころ、やはりこれもベトナム復員兵だったのだが、殺人罪で中西部の刑務所で無期懲役刑に服している男性からの投稿が届いた。送られてきた手書きの供述書には、自分がいかなる経緯で犯罪を犯すに至ったかが混乱した文章で綴られ、最後の一文は「私は完璧であったことはありませんが、私は現実なのです」となっていた。ある意味で、この言葉はナショナル・ストーリー・プロジェクトのモットーだと言ってよいかもしれない。これこそこの本の背後にある根本原理である。私たちは完璧であったことはないが、私たちは現実なのだ。
物語は前に進みうしろに下がり、上へ下へと昇り降りし、出たり入ったりをくり返し、読む方はいつしか頭がくらくらしてくる。ページをめくって寄稿者が変われば、また全然違う人間とあなたは向き合い、全然別の環境、全然別の世界観に出会う。(中略)これは文学とは違う何かなのだ。もっと生な、もっと骨に近いところにある何かなのであって、いわゆる文章術には欠けるものも多くとも、ほとんどすべての物語に忘れがたい力がみなぎっている。
アメリカ人一人ひとりのプライベートな世界に関する物語でありながら、そこに逃れがたい歴史の爪あとが残っているのを読み手はくり返し目にすることになる。(中略)年配の寄稿者が幼いころ、若いころをふり返るなら、おのずとそれは、大恐慌や第二次大戦について書くことになる。二十世紀なかばに生まれた寄稿者たちはベトナム戦争の影響にいまだにとり憑かれている。二十五年前に終わった戦いだというのに、それはいまも我々のうちに、くり返し訪れる悪夢として、国民全体の胸のうちに残る大きな傷として生きつづけている。また、アメリカの人種差別の病をめぐる物語を書いた寄稿者はあらゆる世代に広がっている。3世紀半以上にわたって我々とともにあるこの災いは、我々の懸命な努力にもかかわらず、いまだ解決策が見つかっていないのだ。
一つひとつ、忘れがたい印象をこれらの物語は残す。物語がたくさん積み重なっていっても、なおも心に残り、中身の濃い寓話やよくできたジョークが記憶に残るのと同じように、ふっと頭に浮かんでくる。
28「李香蘭 私の半生」山口淑子
<キーワード>満州 女優
<あらすじ>満州で生まれ育った日本人・李香蘭(山口淑子)。歌手、女優、最後は国会議員。激動の時代を生き抜いた半生を描く。
<感想>
・2020年から満州の歴史に興味があり読みました。満州、中国、日本、アメリカ、様々な場所・立場で、時代を生きた彼女の人生は目まぐるしい。小説を読んでいるようでした。
・出てくる人物がどれもビッグネーム。立ち止まって調べながら少しずつ読みました。
・博識で賢く、強い意志をお持ちの方だと思います。彼女の見方は勉強になりました。
29「アンの想い出の日々」L.M.Montgomery
<キーワード>赤毛のアンシリーズ 短編集
<あらすじ>原題は"The Blythes Are Quoted"(ブライス一家が引き合いに出されている)。アンの一家はちらりと姿を現すか、村人たちの噂話に登場するだけの脇役で、中心は村人たちです。
<感想>
・モンゴメリの王道ストーリーもあるし珍しいストーリーもありますが、いずれも面白い。登場人物一人一人を個性豊かに描いています。
・短編の間に、ブライス一家の短い会話が挟まれています。アンは次男ウォルターが戦死した悲しみを詩に書いて家族に聞かせていました。少女時代とは明らかに違う大人のアンを感じます。子を亡くした親の悲しみは読んでいて切ないです。
・「花嫁がやってきた」ある日、古い教会で行われた結婚式。結婚行進曲が演奏されるなか、花嫁、花婿、ふたりの両親、友人たち…居合わせたそれぞれの想いが交錯する。
結婚式の参加者の心の声を代わりばんこに聞いていきます。一人ひとりのキャラが立っていて、さすがはモンゴメリです。手法が面白くて印象に残りました。
30「Writing Down the Bones」Natalie Goldberg
<キーワード>文章術
<あらすじ>自己表現したい/書きたいのに書けない/もっとうまく書きたい…そんなあなたも、書けるひとになれる。「書ける人になる!」の原書。
<感想>
・日本語版の「書ける人になる!」が大好きなので原書も読むことにしました。「原書ではこんな単語を使うのか」「この英語を日本語ではこう訳すのか」と表現の勉強になりました。
・ナタリーはちょっと変わった言い回しをします。普通ではあまり使わないけれど、でも「よく分かる!」と思える表現。それは英語でも読んでも日本語で読んでも面白いです。
31「道程 オリヴァー・サックス自伝」Oliver Sacks
<キーワード>脳神経科医 自伝 イギリス アメリカ
<あらすじ>モーターサイクルのツーリングに熱中した学生/インターン時代に始まり、世界的なベストセラー医学エッセイの著者になったいきさつ、そしてガン宣告を受けた晩年まで、かたちを変えながらも走り続けた波瀾の生涯を赤裸々に綴る。
<感想>
・濃厚な人生という感じがします。少年時代に夢中になった生物・化学、バイクへの情熱、筋トレへのこだわり、大学生活、同性愛の苦悩、家族との関係、アメリカへの移住、珍しい患者たち、執筆の苦労と喜び、人々との出会い、など。話題は多岐にわたり、読み手としてついていくのが大変でした。でも、いろんな面がごちゃまぜになっているのが人間というもの。自伝はこうでなくちゃ。彼が書いた他の著作も読みたいです。
32「作家の使命 私の戦後」山崎豊子
<キーワード>作家 エッセイ
<あらすじ>作家・山崎豊子が著作に関する、取材の苦労話や、執筆秘話、作品論を語る。「不毛地帯」「二つの祖国」「大地の子」「沈まぬ太陽」「運命の人」
<感想>
・私が山崎豊子さんに出会ったのは、彼女の死後、新聞に掲載された文章を読んだときです。山崎さんの著作にも興味をもち何度か挑戦したものの、話が重すぎてどの作品も挫折。小説は無理でもエッセイなら読めるだろうと思い、選びました。ところがやはり山崎さんのエッセイ、重いです。その分、読み応えがあります。
・彼女の根性には恐れ入りました。取材の鬼。時間とお金をかけ取材し、事実を基に小説を書く。どの作品にも執念が感じられます。
・戦争について語った文章は印象に残りました。
私の青春時代は、学校は二年生までで、モンペを履いて軍需工場でした。今でも私が勉強が好きなのは、学生時代に思う存分勉強が出来なかったからなんです。(p108)
学業半ばにして打ち切られ、二年しか学校に行っていないのに年限が来れば卒業証書を出す。こんなメチャクチャなことはありませんよ。私、クラシック音楽が好きなんですが、西洋音楽は敵性音楽ですから、お布団をかぶってレコードを聴いたものです。本当に貧しい、わびしい青春でした。(p109)
日々、原稿に向うとき、私の心を貫いているものは学徒動員のことである。男子は特攻機に乗って雲の向うに死んでいき、私たち女子学生は全員、大学二年で動員された。(中略)私には、常に生き残った者として、何をすべきかという思いがある。その思いを胸に、『不毛地帯』、『二つの祖国』、『大地の子』を書いてきた。(p136)
・面白いのは、本を書く気などなかった山崎さんを作家に導いたのは、井上靖さんという事実。
伝(つて)を辿って毎日新聞社に入社したのは、正直なところ徴用逃れだったわけです。しかし、ここで学芸部の副部長であった井上靖さんと出会ったことが、やがて作家として産声を上げさせることになったのです。(中略)やがて井上さんが作家としてデビューされ、毎日新聞を退社される際に、「君も小説を書いてみては」と云ってくださいました。その一言が私に大きな衝撃を与えたのです。(p195)
・その井上靖さんのエピソードも面白い。当時の生活、そして井上靖さんの人柄が伺い知れる印象的なエピソードです。
終戦後、井上靖さんは、月に何度かリュックサックを背負って通勤されることがあった。そのリュックサックには、蔵書が詰っていた。当時、井上さんは新聞社へ通勤される前に早朝、小説を書かれていた。その後、蔵書をリュックサックに入れて、まず大阪駅地下の萬字書店(古本屋)で本を売り、空っぽのリュックサックを肩にひっかけて出社し、勤務を終えて帰路につく時、駅前の闇市で食料品を買って帰られるのだった。その頃、新聞社でも多くの人が食糧難に喘ぎ、会社を欠勤して食料の調達に東奔西走していたが、井上さんは小説を書く時間を失わないために、大切な蔵書を手放しておられたのだった。(p219)
・山崎さんの原作は読めないとしてもドラマは見たいなあと思いました。「二つの祖国」(主演・小栗旬)、「白い巨塔」(主演・岡田准一)を見たことがありますが、どちらも良かった。おすすめです(特に、二つの祖国)。
33「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 」丸山正樹
<キーワード>小説
<あらすじ>荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。
<感想>
・この本を読もうと思ったのはYoutubeチャンネルがきっかけです。みゆみゆチャンネル、デフサポちゃんねる。難聴の人とその家族が出てきます。(普通の家族のVlogとしても面白いです)難聴に興味をもちました。もう一つ、以前「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(伊藤亜紗著)を読み感動したのもきっかけです。「ろうの世界はどんな感じなのだろうか」と興味がわき本書を読みました。
・主人公の荒井はコーダ(ろう者の両親を持つ聴者の子ども)である。コーダがろう者・聴者どちらのコミュニティにも属せない苦しさが伝わってきました。
・手話にも種類があること(日本対応手話、日本手話、ホームサイン)、ろう者教育のあり方(聴覚口話法、バイリンガル教育)など初めて知る話題が多く勉強になりました。