<キーワード>中学生 野球
<あらすじ>「そうだ、本気になれよ。本気で向かってこい。関係ないこと全部すてて、おれの球だけを見ろよ」地方都市に引っ越してきた原田巧。天才ピッチャーとして絶大な自信を持つ巧の前に、同級生のキャッチャー永倉豪が現れ、2人はバッテリーを組む。
<感想>
・あさのあつこの最高傑作。これは児童文学の枠を超えています。
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軽くピッチングのまねをする。本気で、ボールを投げたいな。胸の奥がじんとしびれるほど強くそう思った。自分のボールがミットにおさまる音が聞きたかった。修でなくてもいい。誰だってかまわない。自分の放つ一球を確かに受けとめる、ただ一つのミットが欲しい。身体の奥底からつきあがってくる欲望に、巧は目を閉じて耐えた。石段をかけのぼってさえ容易に乱れなかった気息が乱れ、くずれ、苦しい。身体の内側を熱い風が、らせんに渦まいて吹き通っていくようだ。境内に幾本もある大樹の幹に背をもたせかけ、座り込む。投げたい、欲しい、欲しい。マウンドと18.44メートル先のミットに焦れる。今は、しかし、熱風のような欲望をおさえるしかなかった。
「そういえば、永倉の家は病院だってな。やっぱり、お金持ちのぼんぼんは、違うよな」
豪が、突然立ちあがった。大またで、近づいてくる。あっと思った瞬間、胸倉をつかまれていた。
「原田、ええかげんにしとけよ。言うてええことと悪いことがあるんぞ」
豪の声は、低くて聞きとりにくかった。
「なんだよ、おまえだって、さっきおれの球をこのくらいの球だって言っただろうが」
「本気で投げてない球だって言うたんじゃ。ほんまのことじゃろが」
答えが返せなかった。
「おれの家が、金持ちだろうが貧乏だろうが、それが野球と何の関係があるんじゃ。原田巧てピッチャーは、野球に関係ないこと持ちだして、ぐちゃぐちゃ言うような、つまらん奴なんか」
巧の身体をつきとばすようにして、豪は手を離した。
「野球やろうや、原田。野球に関係ないことは、ほんまに関係ないんぞ」
「わかったよ」
やっと一言、言葉にした。相手の顔がまともに見られなかった。そうだ、豪の言う通りだ。親の職業も、学校の成績も、野球に何の関係もない。野球のボールを握りながら、関係ないことをへらへら口にした。自分の球を本気で受けようとした相手をからかったのだ。顔がほてった。
「兄ちゃん」
青波が、スパイクをさし出す。息がはずんでいた。ほっとする。スパイクにはきかえる間は、豪の顔を見なくてすむ。顔のほてりもしずまるだろう。青波は、いつも絶妙のタイミングを知っている。そんな気がした。
豪の指示した場所に、球はまっすぐに飛んでいった。さっき感じた怒りは、いつのまにか消えていた。
自分の中にある力ぜんぶで、ボールを投げられる。そのことが嬉しかった
<キーワード>中学生 高飛び込み
<あらすじ>高さ10メートルの飛込み台からダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う飛込み競技。その一瞬に魅了された少年たちの熱い戦い。自分らしくあるために、飛べ!
<感想>
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・作者は「
カラフル」の森絵都。
<キーワード>高校 剣道
<あらすじ>3歳から鍛えてきた剣道エリートの香織は中学最後の大会で、無名選手にまさかの敗退。再会した因縁の敵・早苗は剣道初心者。「なぜあたしは勝てなかった?」と悔しさに震える香織に対し、早苗はその試合すらすっかり忘れている。まったく正反対の2人が竹刀を手に吠える。
<感想>
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・作者は「ストロベリーナイト」の誉田哲也。刑事ものとはまったく違うジャンルを書いているのは意外でした。