可能性を捨てない

Podcastでポジティブな「かもしれない」というお話をしました。「どうせできるはずない」と思わない、「できるかもしれない」と思い、ポジティブな可能性を自分に刷り込む。何をするにしても大切なマインドです。

この考え方に関するショートストーリーを紹介します。私が大学生のときに作ったお話で、タイトルは「可能性を捨てない」。私は物語を作るクチではないのに、なぜかアイデアが湧きてきたので書きました。海外小説っぽい口調に、私の読書の好みが出ていますね。


可能性を捨てない

男「・・・だからそのとき、僕はあいつの前に姿を現して言ってやったんだ。『おととい来やがれ』って。そしたら、奴さん、そそくさと逃げていったのさ」

女「ふふふ、あははは。あなたの話、おかしい」

男「だろう。僕もこんなことが起こるなんて信じられなかったよ」

女「あー。よく笑った。こんなに笑ったのはひさしぶりじゃないかしら」

男「よかった」

女「あなたの話はいつも面白いわね。何でもよく知ってるし、ユーモアがあるわ」

男「照れるなあ」

女「うらやましいわ。それに比べて私なんか、はあ…。つまらない話しかできないのよ。きっと才能の違いってやつね」

男「なんだって。君の話は面白いよ」

女「いいのよ。お世辞は」

男「うそじゃない。君にしかできない話をして楽しませてくれるじゃないか」

女「そうかしら。あなたは人を褒めるのも上手いわ」

男「本気にしてないんだね。僕は本当にそう思っているのに」

女「もう、いいのよ」

男「…」

女「何を考えてるの」

男「どうやって説明したらいいんだろう、って。いつも僕がどんなふうに考えているか」

女「?」

男「うまく説明できるか自信がないな、うーん。でも、よし、やってみよう。あのね、面白い話をするのに才能は関係ない。いや、話をすることについてだけじゃない。何にでも言える。才能ではなくて、これは見方の問題なんだ。自分にもできるかもしれないと思えば、方法が見つかる」

女「どういうこと」

男「最初から可能性を捨てないってことさ。何か上手い例えがないかな。…あ、そうだ。間違い探し。うん、これはいい例えだ。間違い探し、知ってるだろう。2つの絵から違う部分を探すゲーム」

女「ええ」

男「どうして人は間違いを見つけられるんだと思う?」

女「…質問の意図がよくわからないわ。実際に間違いがあるんだから見つかるのは当然じゃない」

男「その通りだよ。当たり前だ。でもそこがポイントなんだ。問題文に『この2つの絵には違いがある』って書いてある。だから僕たちは間違いを見つけられるんだ」

女「よく分からないわ」

男「もし2つの絵に10個の違いがあったとする。でも問題文には『この2つの絵には9つの違いがある』と書かれていたらどうだろう。きっと僕らは9つ見つけたら満足して終わってしまうはずだよ」

女「そうかもしれないわね」

男「間違いはそこにあるのに僕たちは見つけられないんだ。無意識のうちに『間違いは9つしかない』という前提に立ってしまっているから」

女「なるほどね。でも、それがさっきの話とどう関係するの」

男「君は言ったね。『つまらない話しかできないのは才能の違いだ』って。君は無意識のうちに『自分には面白い話なんかできっこない』って決めつけていたんだ」

女「それはそうかもしれない。でもいくら『私はできる』って言い聞かせたってできないことはあるわ。『私は大統領になれる』って言ったって、誰もがなれるわけじゃないわ。そうでしょう」

男「たしかにそうだよ。でも『できっこない』と思った瞬間、可能性は0になる。もう方法をさがすことすら諦めてしまうんだ。間違い探しと同じだよ。間違いが9つしかないと思っていたら、最後の間違いは探そうともしない。だから見つけられないんだ。でも『もしかしたらできるかもしれない』と思っていたら?そしたら方法が見つかるんだよ。『大統領になれる』と思っても大統領にはなれないかもしれない。だけど大統領になるための方法は見つかる。大学で勉強するとか、お金を集めるとか。そうやって努力すればいつか大統領になれるかもしれない。難しいけどね。少なくとも可能性は0じゃない」

女「…」

男「僕はね、可能性は常にあると思っているよ、何に関してもね。」

女「私、そんなふうに考えたことはなかったわ」

男「『僕は面白い話をして君を笑わせることができるかもしれない』そう思っていればいつかできるようになるものさ」

女「あなたの話は本当に興味深いわ」

男「…」

女「今日は勉強になったわ。どうもありがとう。あ、もう時間だわ。帰らなくちゃ」

男「あ、あの」

女「何?」

男「僕はいつか君を振り向かせられる、かもしれない…」

女「?」

男「あの、今度の日曜日に一緒に映画を見に行かないかな」

女「それって、つまり」

男「君がよければ、だけど」

女「ふふっ。」

男「返事は」

女「Yesよ。あなた、さっきまで自信たっぷり話していたのにね。急にどもっちゃって。気に入ったわ。でも本当にもう行かなくちゃ」

男「それじゃあ、10時に家まで迎えに行くよ」

女「ありがとう。楽しみにしてるわ。じゃあね」

2019年1月4日相良有紀