豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス「なぜ戦争は起こるのか?今さら聞けない現代国際政治の基礎とは」。短縮版はYouTubeで無料で見られます。大変、勉強になりました。このシリーズは時間を見つけて過去動画を見たいと思います。
概要
戦争の原因を理解できれば、戦争を抑止し暴力や殺戮を食い止められるかもしれない。この”問い”に対し過去何百年にもわたり多くの政治家、外交官、軍人、学者が答えを出そうとしてきた。また単純な”平和主義”は答えにならず、逆に危険でもあることを人類の歴史や先人の経験は示してきた。こうした現代世界における外交・安全保障・軍事的抑止の理論的基盤になっている国際政治の考え方を、テレビ東京WBSメインキャスターの豊島晋作が分かりやすく徹底解説。戦争の原因を探求することが、平和の条件を推定することにつながる。国際政治の永遠のテーマである「戦争と平和」の問題について、歴史的、学術的に考察する約48分間。
- 0:00 序
- 0:06 なぜ戦争は起こるのか
- 5:04 戦争原因としての人間
- 5:31 現実主義vs理想主義
- 8:54 国家間の権力闘争
- 22:28 Balance of Powerと戦争
- 29:10 戦争原因としての国家
- 39:34 戦争と国家システム
- 46:28 なぜ戦争は起こるのか・最後に
- 参考文献
- ・ハンス・モーゲンソー「国際政治――権力と平和」
- ・ケネス・ウォルツ「人間・国家・戦争: 国際政治の3つのイメージ」
- ・エドワード・ハレット・カー「危機の二十」
- ・ヘドリー・ブル「国際社会論: アナーキカル・ソサイエティ」
- ・中溝和弥 佐橋亮「世界の岐路をよみとく基礎概念 比較政治学と国際政治学への誘い」
印象に残ったところ
14:40 現状維持勢力と現状変更勢力
こうしたですねパワーを追求する国家間の戦争原因について、さらにですね少しちょっと類型化して考えてみたいと思います。 まずよく指摘されるのが現状維持勢力と現状変更勢力との間の対立です。現状を守りたい国家と「現状はおかしいから変えなければいけない」という国家が対立して戦争になるということですね。(中略)
大戦争が終わるとよくですね講和条約平和条約というのが結ばれますけれども、平和条約の主な目的というのは、それに先立つ戦争の勝敗によって生じた力の変動を法律用語で規定し、新しい力の配分の安定性を法的条項を通じて保障することだというふうにされています。(中略)交戦状態の終了時に存在する戦勝国と敗戦国との関係を恒久化しようとする試みでもあります。
勝った国が負けた国を恒久的に支配しようとする枠組みというふうにもなるわけですね。つまり勝者が敗者に有利な条件を押し付けるというものですが、これが敗者の恨みを買った場合、よくあるんですけれども、徐々にこれが次の戦争の原因になってきたというのが人類の歴史です。実際に第一次世界大戦が終わった後には1919年にはベルサイユ条約が結ばれましたけれどもこの枠組みが崩壊して第二次世界大戦に繋がっていったことが有名です。
18:21 資本家は戦争を望むか
経済という文脈においてはですね、よく言われるのが金融資本が戦争を望んだ、資本家が戦争を望んだという議論がよくされます。何十年も言われるいわゆるですね、国際政治に対する金融資本の支配ということなんですけれども、これについてはですね、ヨーゼフ・シュンペーターがですね、こう言っています。 「事実無根のおよそバカバカしい新聞の作り話に他ならない」これ学術的にある意味否定的に捉えられているようです。
なぜ金融資本の支配が戦争に結びつくというのがバカバカしいというふうに捉えられているのかというと、その理由についてモーゲンソーはですね「資本主義の観点から言えば、資本主義の利益から言えば、戦争ではなく平和が要求されるといったことが階級としての資本家の確信であったし、個人としての資本家の信念でもあった。というのも平和のみが、資本家がその行動の基礎においている合理的計算を可能にするからである」というふうに言っているわけですね。
これ戦争の形態にもよるかもしれませんけれども、今でもウォール街の資本家、金融資本が戦争を起こすという単純な議論があります。ただ世界はそこまで単純ではありません。実態としては例えばですね、戦争が起こると軍事関連産業などは株価の上昇、売上げの増大などを通じて恩恵は得ますし、その株に投資している資本家は儲かるという面はあるかもしれません。
しかしですね、多くの業界、いろんな産業セクターはですね、戦争がもたらす不確実性によって打撃を受けるというのが多くあって、サプライチェーンが寸断されたり、そもそもですね株価が知性額リスクで下げるというような要因になります。ですので、戦争というのはですね、そもそも不確実性の集合体なんですが、マーケットが最も嫌がるのがこの不確実性だということが株式投資をやっていらっしゃる方は皆さんご存じだというふうに思います。なので、「金融資本が戦争を引き起こす」というのはですね、ある意味単純な議論で物事を説明する、断言するという人がいれば、そういった人たちやそういった見方には極めて懐疑的になった方がいい、注意した方がいいという一つの例になるのかもしれません。
31:30 民主主義と戦争
民主主義国家は平和を好む、民主主義国家は戦争をしないといういわゆるデモクラティックピース論というものになってくるわけですね。ですので平和のためには民主主義が重要だというような議論にもなってきます。ただ民主主義が増えた世界でも2つの世界大戦は起こりました世界大戦に陥りました。しかも過去の戦争より被害ははるかに大きかったわけですね。現在でも民主国家のイスラエルとほぼ専制国家であるイランを比べてみますと、今はイスラエルの方が遥かに好戦的だというふうに言えます。(中略)ただいずれにせよ大衆の利益というのが平和にあったとしても、民主国家であっても戦争は遂行される、戦争は起こる、政府は戦争するということが分かっています。アメリカももちろん民主主義国家ですけれども、軍事力は世界最強ということで湾岸戦争ベトナム戦争アフガン戦争、そしてイラク戦争など第二次世界大戦の後もですね数多くの戦争を戦ってきました。(中略)
さらにですね民主主義というのは実は無責任で衝動的で抗戦的で、戦争を誘発するという見方も強くあります。特に第2回の世界大戦はですね、相手を徹底的に叩き潰すという殲滅戦、総力戦にもなりました。これはですねいわゆる国民国家の総力戦の関係はよく議論されますけれども、例えば専制国家ですと王様とかが皇帝化した専制国家の国王君主がもうこの辺りでやめようみたいな妥協の政治的な力学は存在しなかったということになるんですね。これ一つ一つ民主国家と戦争の一つの特徴でもあるということですね。
37:53 悪を排除するための聖戦
邪悪な敵さえいなければ世界は平和になるはずだという問いになります。だから敵を排除すべき聖戦を戦うべきだという考え方になります。しかしですねこの敵を排除するため悪を排除するための聖戦というのはいわば無限の目的のための無限の戦争につながります。言ってみますと永久平和のための永久戦争にすらなりかねないということなんですね
46:48 リアリズムを知る
いわゆる今回はネオリアリズムとかリアリズムを中心に解説したわけなんですけど、もちろん国際政治においてもリアリズム、ネオリアリズムに対しては大きな批判もあります。いろんな論争があります。ただ多くの今の現実世界の国際政治、外交、安全保障、国防議論、軍事力による抑止などを形作っているのはこのリアリズム、ネオリアリズムという議論がベースになっているので、これをまず知ることが非常に大事であるということですね。
やはり世界の戦争と平和の問題を考える際には、いたずらに平和ばかりをやみくもに唱えても全く解決にはならない、しかもそれは危険ではあるということですね。これは第2次世界大戦においてイギリスのいわゆる宥和路線が大きな戦争を引き起こしたという反省もあるんですけど、物事は全く単純ではないということをやはり知っておく必要がある。こうした今の解説したような概念的な基礎は知っておくことが非常に重要であるということです。
またリアリズムというのは軍事力に完全に偏重していくということでもありません。暴力が全てだと考えることは、ある種、知的な堕落でもありますので、まずはやはり歴史を振り返ってこういった先人たちの考えてきたことの基盤を知っておくということが何より大事であるのではないかという思いからこの解説をお届けしました。