毎回楽しみにしている三宅香帆さんと竹下隆一郎さんの本紹介番組Page Turners。今回は終戦記念日に合わせ、戦後80年たった今、戦争を振り返るテーマでした。
三宅香帆の3冊
- ・『「あの戦争」は何だったのか』辻田真佐憲 講談社
- ・『戦争はいかに終結したか』千々和泰明 中央公論新社
- ・『「暮し」のファシズム』大塚英志 筑摩書房
竹下隆一郎の3冊
- ・『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹 中央公論新社
- ・『戦争の記憶』キャロル・グラック 講談社
- ・『戦下のレシピ』斎藤美奈子 岩波書店
データか「えいや」か
竹下:
昭和16年に総力戦研究所という謎の研究所ができて、30代のエリートたちが集められるんですね。去年の「虎に翼」岡田将生さんがやったんですけど、本当にいろんな特科エリート集めて、みんなでシミュレーションして、結論はざっくり言うと、「これ負けます」と。(中略)ファクトを積み重ねていって「やめましょう」って言ったんですよ。でも日本全体が「これってシミュレーションだよね。やってみなきゃ分かんないよね」みたいな空気になっちゃうんですよね。だからそのロジックをいくら積み重ねても、日本っぽいというか、とりあえずやっちゃおうかみたいになっちゃった。
竹下:
私も今の会社とか、前はスタートアップいたのでわかるんですけど、データってすごい社内で大事じゃないですか。でも最後「えいや」ってやる瞬間があるんですよね。竹下:
戦争の前も総力戦研究所がいろんなことを分析して、「いや、石油足りませんよと。その兵力の差よりもちゃんと石油が行き渡らないから、やばいですよ」みたいなことを言ってるんですけど、「とりあえずやってみるか」みたいな。「我々には大和魂っていうリソースがあるんだ」みたいな。三宅:
あと難しいのがこの本とかにもあるんですけど、じゃあ石油がどこから集められるかというと、もう日本にはないわけですよね。だから資源がない側として「えいや」になってしまう弱い側のロジックみたいなのが、この本を読むとすごい分かる。
戦争のイメージ
竹下:
イメージをどう考えるかっていうので、この次の戦争の記憶っていう本。これはですね、コロンビア大学の授業というか、特別授業を全部記録にとっている話で。このコロンビア大学の授業は面白くてですね、いろんな国の人がいるんですよ。それぞれの記憶が違うんですね。例えば、パールハーバーについてどう思いますかって言うんですよね。それと、ユウコさんって多分日本の方なんですけど、「日本による米軍基地への攻撃」と。ニックっていう人は「奇襲攻撃です」と。で、トニーっていう人は「ベン・アフレック」って言うんですよ。映画パールハーバーでベン・アフレックが出てたので。みんなが違う記憶を持ってるんですよね。で、アメリカって教科書とか学校のカリキュラムって州ごとに違うので、それぞれ違う記憶を持ってたりとか。あとはその戦争が始まった時期も、ロシアと違うし、アジアの国も違うし、日本も違うとか。歴史と記憶を分けていて、歴史は歴史学者がファクトで積み重ねて、それもいろんな見方があるじゃないですか。でも、記憶ってそれぞれの人の中にあるので、それの物語をちゃんと捉えないと、なんで歴史を巡っていがみ合ったりとか、戦争起きるのか分からない。三宅:
でもそうですよね。記憶って別に戦争とかじゃなくても結構ずれたりするじゃないですか、思い出話とかって。だからそれと同じで、特にもう国が違って戦い合ってたりしたら、より記憶違うのは「そりゃそうだよな」ってなりますよね。
戦争をどこで終わらせるべきか
三宅:
戦争がどこで終わらせるべきだったのかって、終わらせ方の本なんですよ。この本で取り上げてるのって、いろんな第二次世界大戦もあるんですけど、ベトナム戦争とか朝鮮戦争とかワンガン戦争とか、あとアフガニスタンイラクとかも、どうやって戦争が終わったかっていう事例を集めてる本なんですよ。それによって結構戦争が終わる時っていうのは何パターンかあって、一つは妥協的和平って言って、ある意味平和のためにこことここで妥協しましょうっていうパターンと、あと戦争原因の根本的解決って言って、原因となったものを完全に解決し終わってから戦争を終えましょうっていう。それのどっちの場合も泥沼って言ったらいいですけど、すごく長期化しちゃう場合もあるので、じゃあなんでそういう風になっちゃうのかとか、事例ごとに書いています。基本的にその戦争の出口戦略ってどこにあるのかとか、日本の太平洋戦争がこう長引いたのって、結局その将来の危険と現在の犠牲っていうのが結構拮抗してたから、だから判断できず終わったんだよねみたいな話とか書いてて、長期化させないとか、長引かせないっていうのもめちゃくちゃ大事だなって。三宅:そもそも始めないのが一番みたいな。そうですよね。終わらせ方の話を読むとより始めないのが一番大事になるので、それもあってすごいいい本だな、いい切り口だなって思いました。
本によって相手側のロジックを理解できる
竹下:
本を読まないとこの複雑な感じって絶対分かんないと思うんですよね。三宅:
いや、そうだと思います。本を読むことでこそ、相手側のロジックとして理解できるというか。自分が共感できるかできないかを超えて、「そういうことだったんだ」って、「その人たちはこういうことを考えてたんだ」っていうのがすごく分かる瞬間がありますよね。
書き手として
三宅:
自分が文章を書くときに、今みんなが何に興味があるのかなっていうのは常に考えちゃうんですよ。それに対してみんなが考えている方向に合わせて自分の言いたいことを発信するみたいなことをすり合わせたい気持ちになっちゃうんですけど、善悪を考えずに追いかけすぎると、戦争をもし望んでいる人がいたら、言論空間をそっちに持って行かせようとする人って絶対いると思うので、それはそうさせないようにしないといけないなと思います。