逆説の10ヵ条
1.人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。それでもなお、人を愛しなさい。
2.何か良いことをすれば、隠された利己的な動機があるはずだと人に責められるだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
3.成功すれば、うその友達と本物の敵を得ることになる。それでもなお、成功しなさい。
4.今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
5.正直で素直なあり方はあなたを無防備にするだろう。それでもなお、正直で素直なあなたでいなさい。
6.最大の考えをもった最も大きな男女は、最小の心をもった最も小さな男女によって打ち落とされるかもしれない。それでもなお、大きな考えをもちなさい。
7.人は弱者をひいきにはするが、勝者の後にしかついていかない。それでもなお、弱者のために戦いなさい。
8.何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。それでもなお、築きあげなさい。
9.人が本当に助けを必要としていても、実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。それでもなお、人を助けなさい。
10.世界のために最善を尽くしても、その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。それでもなお、世界のために最善をつくしなさい。
第1部 おかしな世界
この世界は狂っているということをまず認める、そこから始めるのが最善です。この世界はまったくどうかしています。
環境汚染によって私たちは自分たちの首をしめています。生態系はすべて衰退しています。人口は地球がサポートできないようなスビードで増加の一途をたどっています。私たちは、まるで資源が永続するかのようにふるまい、資源を補おうとも、持続可能な未来を築こうともしていません。
「核軍縮は進んだものの、いまだに何万個という核弾頭が地球に存在しています。これは地球上に存在する男性、女性、子どものすべてを三回か四回殺すに充分な数です。わずか百個の核爆弾が都会の頭上で爆発しただけでも、太陽光をさえぎり地上のあらゆる生命体を死に至らせるだけの暗雲が生まれるのですから。
現在、地球上のすべての人が充分なカロリーを得られるだけの食物が生産されています。しかし、毎年、何十万という人々が餓死し、十億人以上の人々が深刻な栄養失調の状態にあります。
何百万という人々が治療可能な病気にかかっています。推定では、七億人が回虫、十二指腸虫、鞭虫などの寄生虫に悩まされています。貧困にあえぐ国々は、ポリオやはしか、黄熱病などを予防するためのワクチンを買ったり、結核やハンセン病と戦うための薬を分配するだけの経済力がありません。貧しい国々の八千万の子どもの中で、ジフテリア、百日ぜき、破傷風に対して免疫をもっているのは八百万人に過ぎません。熱帯地域の国々では、二千五百万の人々が予防可能な病気が原因で失明していると推定されています。
アメリカ合衆国は世界でもっとも豊かな国ですが、一千百万人以上の子どもは貧困ラインよりも低いレベルでの生活を余儀なくされています。貧困ラインよりも低いところで生活している五歳以下の子どもの数は、一九八〇年から一九九〇年にかけて二十三パーセントの増加を見せました。
(中略)
確かに、この世界は狂っています。あなたにとってこの世界が意味をなさないと言うのなら、それはあなたの言うとおりです。この世界はまったく意味をなしていません。
大切なことは、それについて不平を言うことではありません。希望をすてることでもありません。それはこういうことです。世界は意味をなしていません。しかし、あなた自身は意味をなすことが可能なのです。あなた自身は一人の人間としての意味を発見できるのです。それがこの本のポイントです。これは、狂った世界の中にあって人間としての意味を見つけるための本です。
この世界は狂っていますが、あなたは狂っていません。だから、あなたは逆説の中に人間としての意味を見出すことができるでしょう。「逆説」とは皆が信じている意見とは対照的な考えであり、常識と矛盾しているようでありながら真実であるものです。私はここに、生きる意味を見つけるための逆説の10カ条を記します。
この10カ条を受け入れることができれば、あなたは自由の身になるでしょう。この世界の狂気から自由になるということです。逆説の10カ条はあなた個人の独立宣言といってよいかもしれません。壁に貼って、あなたが自由であることを思いだすためのよすがにしてください。これから死ぬまでのあいだ、正しいと思うこと、良いと思うこと、真実であると思うことを、あなたにとってそれは意味があるというただそれだけの理由で、実行することは可能です。
逆説の10カ条は病的でもなければ、悲観的でもありません。正しいこと、良いこと、真実であることを実行すれば、多くの場合その貢献に対して感謝されるでしょう。しかし、世の中の拍手喝采がなくとも人間としての意味を見出すことができるならば、あなたは自由な人です。他の人が感謝の気持ちをもとうがもつまいが、自分にとって意味があることを実行する自由が、あなたにはあるからです。本当の自分でいる自由があなたにはあります。本来あるべき自分になる自由が、あなたにはあります。他の人たちが見逃している意味を発見する自由があなたにはあります。その意味を発見したとき、これまで体験したどんな幸せよりも深い幸せが見つかることでしょう。
逆説の10カ条は生きる意味への呼びかけです。狂った世界の中に人間としての意味を発見しようという呼びかけです。本書で逆説の10カ条の意味を探究し、逆説的な人生を送る方法について語りたいと思います。
第6章
もっとも大きな考えをもったもっとも大きな男女は、もっとも小さな心をもったもっとも小さな男女によって撃ち落とされるかもしれない。それでもなお、大きな考えをもちなさい。ソクラテス、ガリレオ、ジャンヌ・ダルク、コロンブス、リンカーン、スーザン・B・アンソニー、ガンジー、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア。人間の歴史には大きな男女の物語がいっぱいつまっています。大きな考えを抱いていた大きな人々が、小さな人々によって、文字どおり、あるいは、比喩的な意味で撃ち落とされた物語です。小さな人々が彼らをあざ笑い、牢獄に閉じ込め、撃ち殺した物語です。
世界は大きな人々を必要としています。寛大で、原則をしっかりともち、コミットしていて、心を開いて新しい思考と行動で機会をとらえ問題を解決する、大きな人々を必要としています。世界はまた、大きな考えを必要としています。真の意味で違いを創りだす考え、大いなる変化を生みだす考え、パラダイムの転換を呼び起こすような考えを必要としています。私たちは大きな問題を抱えています。したがって、私たちは大きな解決を必要としています。現状維持を超越してより良い世界を先見できる人々が必要です。
大きな考えが大きな失敗をもたらしたことがあるのも確かな事実です。大きなヴィジョンの中には大失敗だったものもあります。しかし、多くの場合、実際にやってみるまで、どうすればうまくいくのかはわからないものです。それも、不平を言いながら、足を引きずるように、不承不承やるのではなく、充分な時間と資源を費やして一生懸命かつ知的にやってみる必要があります。
人も組織も夢を必要としています。リーダーの役目の一つは、グループないしは組織の使命とヴィジョンを形成し、明確に表現することです。ヴィジョンとは未来についての考えです。組織、あるいは組織が奉仕している人々のために、何が可能であるか、何がなされるべきであるかについての考えです。 大きなヴィジョンは大きな人々を惹きつけます。自分の能力を試されることに対する準備ができていて、学び、成長し、遂行能力を高める覚悟のある大きな人々を惹きつけます。人は違いを生みだしたいと思っています。人には希望を抱くための理由が必要です。努力して向かう目標が必要です。小さな考えが私たちの最高の能力を引きだすことはありません。大きな考えにはそれができます。
(中略)
大きな考え、つまり、夢を抱くことによってあなたの人生には意味が生まれます。大きな考えは焦点や方向性を与えてくれます。努力するための目標を与えてくれます。あなたの大きな考えが誰かによって撃ち落とされたら、それを拾って、挨を払って、再び活動を始めるだけの話です。夢の実現に向かって踏みだす一歩一歩が限りない意味と満足感を与えてくれるでしょう。
第9章
いたるところに本当に助けを必要としている人たらがいます。あなたが彼らを助ければ、彼らはあなたを攻撃してきます。しかし、その攻撃はあなたに対するものではありません。自分が置かれている状況に怒りを感じているのかもしれません。無力感、あるいは、助けてもらわなければならないという気持ちと戦っているのかもしれません。彼らが攻撃してきたからといって助けの手を引っ込めないでください。あなたのことを何度も何度も助けてくれた人がいるはずです。今度は、あなたが助ける番です。
第3部 逆説的な人生
人を愛すること、良いことをすること、正直であること、大きな考えを抱くこと、弱者のために戦うこと、築くこと、他の人気を助けること、世の中のために最善を尽くすことによって得られる「意味」に焦点がしぼられています。一つひとつの行動がそれ自体で充分でありえるのです。その行動から何かが生まれるか生まれないかとは関係がありません。逆説の10カ条を生きるとき、一つひとつの行動がそれだけで完璧になります。なぜなら、一つひとつの行動それ自体に意味があるからです。
私たちがやることを誰も知らなくても、誰も評価してくれなくても、それは問題ではありません。そんなこととは無関係に、私たちは正しいことをしなければなりません。これは自分の問題であって、他人の問題ではないのです。これは私たち自身がどれだけ気にするかという間題であって、他の人がどれだけ気にするかという問題ではありません。
評価されたいという願望をもつのは当然です。しかし、他人の拍手喝栄を切望すると、意味を見つけることは難しくなります。拍手喝栄を切望する人は、他人が必要としているものに心の焦点を合わせる代わりに、拍手喝栄を得ることに心の焦点を合わせてしまいます。それだけではありません。人は時として拍手喝采することを忘れるものです。したがって、拍手喝栄を切望する人は、自分の幸せを他人の気まぐれな心の動きにゆだねることになります。これとは対照的に、他人に援助の手を差し伸べることによって得られる意味や満足感は常にあなたのものです。拍手喝采を受けるか受けないかとは無関係です。
これは聖人君子の話に聞こえるかもしれません。しかし、逆説の10カ条を生きるということは聖人君子になることではなく、正常な人間として生きることです。
逆説的な人生を送るということは、あるタイプの人間になるということです。つまり、あなたが属する社会や会社がプレッシャーをかけてこうなりなさいといっているような自分になるのではなく、本当の自分、あるべき自分になるということかもしれません。自分にとって一番大切なものとは何だろうと問いかけ、その価値観を生きることです。それは人間としてのあなたの誠実さ、完全さ、信憑性の問題です。
逆説的な人生を送るとは、そのコースにとどまることができるかという能力の問題でもあります。最初に自分自身の面倒をしっかりと見ることができれば、他の人を愛し助ける能力はさらに助長されます。規則的に運動して、正しい食事を摂り、充分な睡眠をとることが大切です。スピリットを再生するために時間を取るべきです。成長するための新しい方法を発見する必要があります。この世界に対する新しい理解の仕方を発見する必要があります。あなたの前に提示される問題をすべて引き受けることによって重荷を背負いすぎてはいけません。選択することが大切です。バランスをとることです。燃え尽き症候群にかかったりすれば、人を愛し、人を助けるエネルギーがなくなってしまいます。
小さなニーズであれ、大きなニーズであれ、短期間であれ、長期間であれ、近くにある問題であれ、遠くにある問題であれ、あなたが行動を起こせばかならず違いを生みだすことができます。人間の基本的なニーズを満たしてあげれば、きっと違いを生みだすことになるはずです。人間の基本的なニーズは世界中どこでもそれほど変わることはありません。人間にまず必要なのは衣食住です。そして、健康、安全な生活環境、学ぶための機会、成長するための機会、やりがいのある仕事、友人や家族との時間、帰属意識、人間としての尊厳、平和、正義も必要です。
もっとも基本的なニーズを満たすことに力を貸すことによって、大いなる意味を発見することができます。ですから、どうぞ行動してください。世界の平和のために活動してください。正義のために力を尽くしてください。環境を守ってください。飢餓や病気と戦ってください。人に読み方を教えてください。子どもに歌を歌ってあげてください。十代の若者を導く存在になってください。毎日、何かをしてください。来る日も来る日も、何かをやり続けてください。
究極的には、誰が一番大きな影響力をもっているのでしょうか。地域社会のリーダー、国のリーダー、国際的なリーダーには影響力があります。しかし、このようなリーダーの多くは、少数の人に大きな影響を与えるというよりは、多数の人に小さな影響を与える人たちです。これに対して、両親、親威、友人は、少数の人、特に子どもたちに対して大きな影響力をもっています。
逆説的な人生を送る中で、人を愛し、人に援助の手を差し伸べることによって、大いなる人生の意味を見出すことになります。他の人が人生の意味を見つけることの手伝いをすることによってもまた、大いなる意味を見出すことができます。あなたが学んだことを他の人も学べるように手を貸してあげてください。他の人が逆説的な人生を発見し、それを生きるようにあなた自身が一つの模範例になってください。
これは希望に満ちた未来につながります。ますます多くの人たちが「成功」よりも、「生きることの意味」に心の焦点を合わせるようになれば、世の中は変わり始めるでしょう。見返りを期待することなく、ごく自然に人助けをするようになるでしょう。会社の組織の中で誰が出世するかなどということは気にしないで、お互いに助け合うようになるでしょら。自分が大切だと思うことのために人生を生き、心の命じるところにしたがって、自分の人生の使命を果たすようになるでしょう。たとえ、それが権力や富や名声に結びつかなかったとしても。あらゆる決定は、対抗意識に基づいてではなく、一人ひとりにとっての最善、会社にとっての最善、社会にとっての最善という観点からなされるでしょう。自分自身の権力を強くするために問題をつくりだしたりせずに、自分にとっての意味を高めるために問題を解決するようになるでしょう。意味志向の人たちが社会の先頭に立って、評価されるとか拍手喝栄を浴びることなど意に介さずに、本当に必要な問題に取り組み、本当の問題を解決していけば、世の中はずっとましな場所になるはずです。
あなたが何をする選択をしたとしても、一つのことだけは確実です。逆説的な人生を送ると、この狂った世界において生きることの意味を発見できるだろうということです。あなたは違いを生みだすでしょう。人の人生を変えるでしょう。あなたが変えるであろう人生の一つは、あなた自身の人生です。