目次
・緑の天幕
<感想>
・映画「小説家を見つけたら」の原作。大学生のときに映画を見て気に入ったので、原作を読むことにしました。
・主人公ジャマールの心情が読めてよかったです。彼は3重生活を送っています。ブロンクスの友達や家族と過ごす時間、慣れない白人の学校で勉強・バスケットボールに励む時間、フォレスターと一緒に文学に没頭する時間。自分がばらばらになってしまいそうななかで、なんとかバランスを保っていたのは、途中は不安にもなりましたが、最後は「よく頑張ったな」と彼の肩を叩きたい気分になりました。誰しもそういう経験があるのではないかと思います。コミュニティそれぞれで、ちょっとずつ違う自分の顔があって、時には苦しくなるのではないでしょうか。
・第17章、絶望のなかジャマールが文章を書くシーンが印象に残りました。彼の集中力が極限まで高まっていく様子が感じれられ、物語を見ているようでした。彼が書き上げた文章も素晴らしかったです。
<キーワード>ソ連 長編小説
<あらすじ>ソ連とは一体何だったのか? スターリンが死んだ1950年代初めに出会い、ソ連崩壊までの激動の時代を駆け抜けた三人の幼なじみを描く群像劇。
<感想>
・素晴らしい本でした。2022年最高の一冊になると思います。
・とても長かった。元旦から読み始めて、読み終えるまで2ヶ月以上かかりました。もっとも、面白い本は長かろうが短かろうがそんなの関係ありませんからね。
・三人の幼馴染を描く群像劇と銘打ってありますが、「三人と彼らを取り巻く人々を描いた短編小説の集合」のほうが正しいです。決まった主人公はいません。その代わり誰もが主人公。ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」は、物語の本筋から反れたときに「これは別の物語、いつかまた、別のときにはなすことにしよう」という言葉で本筋に戻ることが特徴ですが、本作「緑の天幕」ではその別の物語もしっかり描いてくれます。こういう小説が読んでみたかった。
・全知の神が書いたのではないかと思ってしまうほど、あらゆる人々のあらゆる感情が描かれています。いったい何回転生したらこんな物語が書けるのでしょうか。何十人もの人生を体験したような気分です。一度に全ては受け止めきれなかったので、また読み返したいと思います。
・ソ連の本はもう一冊読んだことがあります。モスクワの少女カーチャ(自伝)。本作と時代も重なっているので状況説明など同じ部分はたくさんありましたが、一つ大きな違いがあります。カーチャではお店に行ったらいつも行列と品切れ、圧倒的な物不足が強調されていたのに、「緑の天幕」では全然でてこない。同じモスクワ、同じ時代、登場人物の階級もそれほど違わないのに奇妙です。他にもソ連の本を読み比べたいと思います。
・新潮クレスト・ブックスはいいですね。他の本も面白そうなので読んでみます。
気になる本:「通訳ダニエル・シュタイン」、「大統領の最後の恋」、「オルガ」、「屋根裏の仏さま」。・作者リュドミラ・ウリツカヤがロシアのウクライナ侵攻について答えたインタビュー動画を日本語訳しました。→Every war is doomed to defeat
3「タングステンおじさん」Oliver Sacks
<キーワード>化学 少年時代
<あらすじ>子供のころ、化学に夢中だった。物質の化学的な振舞いの面白さを説き語ってやまないおじ、「タングステンおじさん」がいたからだ。暖かな家族に囲まれて科学への憧れを育んだ楽園の日々。化学の発展史が一風変わった切り口から紹介される、自伝的エッセイ。
<感想>・昨年、Oliver Sacksの自伝「道程」を読んで気に入り、彼の他の著作を読んでみたいと思っていました。
・本題の化学についてはそれほど興味を惹かれませんでした。むしろ、彼の育った環境を興味深く読みました。第2次世界対戦中、イギリスで少年時代を過ごしたこと、医師・化学者の家系で育ったこと、ユダヤ人のコミュニティ・文化、家族一人一人の思い出。良かったです。
<キーワード>ろう文化 聴文化
<あらすじ>コーダとは聞こえない親をもつ子どもたち。「ろう文化」と「聴文化」のハイブリッドである彼らの日常は、驚きに満ちている。
<感想>
・障害を持つ人がどんなふうに感じているのかに、大学生のころから興味をもっています。(参考:障害を知る本 おすすめ)昨年読んだ小説「デフ・ヴォイス」でCODA(Children of Deaf Adult)の存在を知り本作を読むことにしました。
・コーダという特殊な状況にある人々を考察しているのはもちろんですが、実はもっと一般的な話題でもあると気づきました。つまり、親子の関係性。親が子とどう関わるか、子が親とどう関わるか、兄弟と親の関係、親子が年をとるにつれて関係がどう変わっていくか。コーダの本からそのようなことが見て取れるとは予想していなかったので、面白いなあと思いました。
5「これは経費で落ちません!」(コミックス版)1~8巻 原作・青木裕子 漫画・森こさち
<キーワード>漫画 経理
<あらすじ>経理女子の目線で見るお仕事ドラマ。森若沙名子、27歳、経理一筋5年。恋愛とは縁遠い彼女だが、きっちりと働き完璧な生活を送っている。領収書から社内の意外な人間模様を垣間見る
<感想>
・私が好きな女優・多部未華子がドラマの主演をしていたと知り、興味を持ちました。
・恋愛が主題ではないものの、営業・山田太陽といい感じになっていくのはキュンキュンしてむしろ本編より楽しみです。お仕事&爽やかな恋愛物語。有川浩の「県庁おもてなし課」や「図書館戦争」を思わせます。
・登場人物一人ひとりが個性的でよい。主人公のモットーが「even」なのも面白い設定です。
・私は会社の経理をしていますが、会社の規模が違うせいか、担当業務が違うせいか、森若さんの仕事とはかなり違っていて仕事の面で共感はできませんでしたが、他の会社を覗いているような感じで面白かったです。
・面白くて8巻を一気読みしました。
6「めんどくさがりなきみのための文章教室」はやみねかおる
<キーワード>文章の書き方
<あらすじ>だれでも文章が上達する方法を、ぽっちゃり猫が小説形式で楽しく教えます。作文、メール、レポートから小説まで、これ1冊で書ける!
<感想>
・はやみねかおるといえばヤングアダルト向けミステリの名手。中学生のときは「都会のトム&ソーヤ」に夢中でした(シリーズは今も続いているんですねえ。現在19巻!)。ゲームと現実を混ぜているのが斬新で、とてもワクワクしました。
・読むと書きたくなります。
・「私にもできるかも。やってみたい」と思わせるのは素晴らしい。あらゆる指南書はこのように読者に動機をあたえるべき。
・分かりやすく具体的なアドバイスが良い。物語仕立てになっているものグッド。子ども向けに思えますが、大人にもおすすめです。
・表面的なテクニックにとどまらず、心得を教えてくれる。
7「Fashion Climbing」Bill Cunningham
<キーワード>ファッション 自伝
<あらすじ>
ボストン郊外のアイルランド系の街で育ったビルは、姉のドレスをこっそり試着し、放課後はショッピングを楽しみ、ファッションに捧げる人生を夢見た。しかし、その夢は家族の恥となり、ハーバード大学を中退した彼は、その夢を追い求めるために家族と徹底的に戦わなければならなかった。
ニューヨークに着くと、彼は人間観察に興じた。夜な夜なオペラのオープニングや豪華な舞踏会に出かけ観察するのが彼にとって教育であった。ビルはデザイナーとして名を馳せ、映画スターや相続人、アーティストを相手に、当時最も奇抜で有名な帽子デザイナーの一人となった。彼の使命は、女性にインスピレーションを与えることで、世界に幸せをもたらすことだった。帽子の時代が終わるとともにデザイナーを引退し、新聞のファッション記事ライターに転身する。ニューヨークの街角やパーティーでカメラを構え、流行をとらえた。
本書はファッションの究極を追い続けた彼の人生を記録している。
<感想>
・2011年に公開されたドキュメンタリー「ビル・カニンガム&ニューヨーク」は彼がニューヨークで新聞記事を寄稿している時期を描いています。私が大学生のとき、結城浩さんの記事でこの映画を知りました。ファッションにはあまり興味が無いのですが、結城さんがおすすめしているならと見たところ、とても良かったです。彼の自由で、情熱にまっすぐな生き方が刺さりました。彼は2016年に亡くなり、死後、彼の自伝が出版されています(本書)。映画が良かったので、自伝も読むことにしました。
・とても良かったです。映画は彼の人生のほんの一部。デパートで働いた経験、従軍してフランスに赴いたことや、春夏にコレクションをしたこと、などまったく知りませんでした。ファッションへの情熱の火を燃やし続けた人生でした。
・たくさんの人と会ってきて、ときどき「こんな人が本当に存在するのか」と驚くことがあります。浮世離れしているというか、周りとはまったく違う時間の流れに生きているというか。異世界の人ではないか、と思ってしまいます。(私はそういう、ちょっと変わった人が好きなんですけど。)彼もその類の人です。いや、彼の場合「ちょっと」ではありませんね。
・The New York Timesには彼が書いた記事がアーカイブされています。Work by Bill Cunningham for The New York Times
・英単語についてのコメントはこちら
・日本語訳もあります(後述)
・印象に残ったところ
美しい女性を創造して、彼女たちを夢のような空間に置くことが私に定められた運命なのだった。
I knew my destiny was to create beautiful women and place them in fantastic surroundings.
自分が司祭に向いていないことは自覚していた。魂の最も深い場所の片隅で燃えている悪の炎に突き動かされて、せっせと針を動かしていたのだから。
I always knew I wasn't priesthood material as I was sewing away from some devilish fire, flaming inside the deepest corners of my soul.
ガードナ夫人の美術館を初めて見た時、人生が始動した。
Life really began for me on my first visit to Mrs Jack's.
8「ファッション・クライミング」Bill Cunningham
<キーワード>ファッション 自伝
<あらすじ>彼にファッションを撮られ、NYタイムズに掲載されることはニューヨーカーにとっての最高のステイタスだった……。カニンガムが自らの人生を生い立ちから告白、純粋なファッション評価を貫いた武勇伝、その哲学を語る。
<感想>
・洋書を読んでから日本語訳を読みました。原書の内容は申し分ないし、翻訳もいいのに、Amazonのレビューが0なので不思議に思います。普段Amazonにレビューは書かないのですが、これは書いときました。多くの人に読んでもらいたいです。
9「通訳ダニエル・シュタイン」リュドミラ・ウリツカヤ
<キーワード>キリスト教 ユダヤ人 イスラエル ポーランド ホロコースト 宗教 歴史
<あらすじ>ダニエル・シュタインはポーランドのユダヤ人一家に生まれた。奇跡的にホロコーストを逃れたが、ユダヤ人であることを隠したままゲシュタポでナチスの通訳として働くことになる。ある日、近々、ゲットー殲滅作戦が行われることを知った彼は、偽の情報をドイツ軍に与えて撹乱し、その隙に三百人のユダヤ人が町を離れた…。戦後は、カトリックの神父となってイスラエルへ渡る。心から人間を愛し、あらゆる人種や宗教の共存の理想を胸に闘い続けた激動の生涯。実在のユダヤ人カトリック神父をモデルにした長篇小説。
<感想>
・すばらしい作品。毎日、朝ごはんを食べながら本書を少しずつ読みました。このような優れた作品を読んで一日を始められるとはなんという幸せでしょうか。読み終えるのが惜しいくらいでした。
・リュドミラ・ウリツカヤは私が今一番注目している作家。この人はノーベル文学賞をとるのではないかと思います。
以前読んだ本「緑の天幕」。インタビュー動画「すべての戦争は敗北する運命にある」
・あらすじを読んだ時点では「ホロコーストの時代に同胞を助けたユダヤ人のヒーローのお話」なのかと思っていましたが、むしろ主題は戦後の神父時代にあると思います。宗教についての話。本来のキリスト教とはなにか、ユダヤ教とは相容れないものなのか、3つの宗教が同居するイスラエルがどれだけ問題を抱えた国か、神は存在するか、といった難しいテーマを扱っています。
宗教は物議を醸す話題ではありますが、私はそのあたりの宗教に関する知識があまりないせいか嫌悪感はなく、むしろ勉強になりました。理論的な話だけではなくて、イスラエルや宗教の歴史も知ることができましたし、ユニークな登場人物のおかげで物語の中に入り込めたのが良かったのだと思います。(物語の力は偉大ですね)。
ウリツカヤはあとがきでこのように書いています。
本書に落胆させられたり、本書の厳しい見解に怒りを覚えたり、あるいは本書を全く受け付けないという方々には、その全員にお詫び申し上げる。本書が誰かをそそのかしたりせず、ただ人生や信仰の様々な事柄において個人的な責任を負うことへの呼びかけとなるよう願っている。私が真実(私が理解する意味での)を語りたいと心から願い、そしてそのような無謀な試みに取り組んだということが、私自身の弁明である。
・宗教という大きなテーマもありますが、読みどころは登場人物一人ひとりの人生にもあります。「緑の天幕」で経験したのと同じ感動です。
・特に印象に残ったのは、ダニエル・シュタイン、イサーク・ハントマン、ヒルダ・エンゲルの3人。
・ダニエルはユーモアがあり穏やかな性格で、しかも聡明。感じがいいです。極限状態を経験した者に備わるたくましさも感じられる。
・イサーク・ハントマンはポーランドの大量虐殺を逃れたユダヤ人。戦後、アメリカに渡った。理知的な人物で、彼の分析的思考は興味深い。唯物論者なのに宗教について詳しいのは少し可笑しいです。
・ヒルダ・エンゲルはイスラエルの教会でダニエルの補佐をしている女性。彼女はただの信心深い信者ではありません。彼女は妻子ある男性と恋仲になり悩み苦しむ。キリスト教徒として不義を犯したくないが、しかし愛する気持ちを止められない。彼女の葛藤には胸を締め付けられます。
・ウリツカヤは人物を描くのがうまい。本当に一人の作家が書いたのか、と疑うほどリアルで個性的な人々が登場します。「人物描写が得意な作家」というと、私はいつもアガサ・クリスティとL.M.モンゴメリを思い浮かべますが、これからはウリツカヤもリストに入ると思います。
・変わった形式の物語です。人々が代わる代わる話し手になります。話し手は次々に変わっていくし、時間的な順序もバラバラなので最初は混乱しましたが、新鮮で面白かったです。(このような形式をモンタージュというそうです。)
・上巻の最後に作者自身が登場します。執筆の大変さをこぼしているのがおかしいです。
モンタージュするのは気が狂いそうなほどの難題です。膨大な素材が入り乱れ、出てくる人々の誰もが発言を求めるので、誰を表に出すか、誰を待たせるか、誰に黙っておいてもらうか決めるのは大変です。
大きな作品はいつもそうですが、この作品にも消耗させられています。実現困難な課題だと分かっていながら、どうしてこんなものに手をつけてしまったのか、自分自身にも貴女にも説明ができません。
でも、もし解決法がないのだとしても、その問題自体を眺めてみるのは良いことだと思います。ぐるっと回って、見るのですー前から、後ろから、横から、上から、下から。なるほどそれはこういう問題なのか、解決するのは不可能だと、自分の目で見て納得するのです。
・「緑の天幕」と同じく、またじっくり読み返したい作品です。
<キーワード>自作PC 初心者
<あらすじ>パーツの基本から選び方、実際に組み立てていく流れ、組み立てたパソコンへのOS・ドライバーのインストールまで、順を追って解説。用途・予算別のパーツ構成例も掲載。初めて自作パソコンにチャレンジしたい方におすすめ。Windows11対応。
<感想>
・初めてデスクトップPCを組み立てるにあたって参考にしました。分かりやすかったです。ネットでも情報は手に入りますが、一度体系的に学んだほうが良いと思います。本書を読んだうえでネットの情報にあたって部品を選びました。
・PCを自作した話はこちら(動画あり)。
<キーワード>SF
<あらすじ>2隻の宇宙船が南太平洋に墜落した。1隻に乗っていたのは探偵、いま1隻には犯人が乗っていた。両者とも人間ではない。高度の知性と感覚をもったゼリー状の半液体生物である。ただし彼らは宿主なしには生きられない。ついに地球上で虚々実々の追跡戦が開始されたが地球人の頭脳にもぐりこんでいるはずの犯人逮捕の確率は、20億分の1。
<感想>
・普段は全然SFを読まないのですが、知り合いに勧められ読み始めたらとても面白かったです。ジャンルとしてはSFですが、少年時代を描いた作品という印象を持ちました。たとえば、アーサー・ランサムのツバメ号シリーズや、十五少年漂流記のような作品に近いと思います。
・舞台が変わっています。南太平洋にあるアメリカ領の小さな島。設定の説明も面白かったです。
・宇宙人(探偵)は真面目で賢く、好感が持てる。意外でした。
・主人公と宇宙人(探偵)、父、医者はちゃんと描かれているものの、それ以外のキャラクターがいまいちなのが残念でした。友達の印象が薄くて、結局、覚えられませんでした。
・ちなみに、このようなジャンルを「ファーストコンタクト」と言うそうです。人類が異星文明と初めて接触することを指し、SF作品において繰り返し扱われてきました。有名な作品:「未知との遭遇」「星を継ぐもの」「ソラリス」「ET」
12「特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー」カズオ・イシグロ
<キーワード>カズオ・イシグロ ノーベル文学賞受賞記念講演
<あらすじ>24歳のカズオ・イシグロは大学院で創作を学ぶため、小さな村にいた。静かな屋根裏部屋の孤独のなかで、彼は生まれた町、長崎についての話を書きはじめる―。世界的作家の知られざる若き日々、音楽から得たインスピレーション、創作に対する考え、そして文学の未来まで。2017年のノーベル賞作家の受賞記念講演を、英文と日本語訳で完全収録。
<感想>
・私はカズオ・イシグロの「日の名残り」が大好きだし、インタビューをいくつか見て彼自身にも興味があったので読みました。良かったです。短いですが、彼の小説に対する考え方や人生を垣間見ることができました。彼は「賢くて穏やか。そして他とは違う考え方を持っている」という印象は私のなかでずっと変わりません。尊敬する作家の一人です。
・印象に残ったところ
「私の」日本という特異な場所はひどく脆い。外部からの検証を許さない。そんな感覚があって、それがノーフォークのあの小部屋で私を駆り立てたのだと思います。私がしたことは、あの場所の特別な色彩や風習や作法、その荘重さや欠点など、その場所について私が考えていたすべてを、心から永久に失われてしまわないうちに紙に書き残すことでした。私は自分の日本を小説として再構築し、安全に保ちたかったのでしょう。
作家にとって重要なターニングポイントは─たぶん、多くの職業で同じかもしれませんが─こんなふうにやってきます。ちょっとした瞬間に、その人にだけわかる啓示の火花が静かに光ります。めったにあることではなく、あってもファンファーレつきとはかぎりません。お墨付きをくれる師や同僚もいないでしょう。その啓示と競い合うように、もっと声高に緊急の対応を要求してくる出来事があるかもしれませんし、啓示の意味することが時代の常識に反しているかもしれません。ですが、啓示を得たら、その何たるかを認識できることが重要です。
結局のところ、物語とは1人が別の1人に語りかけるものでしょう。私にはこう感じられるのですが、おわかりいただけるでしょうか?あなたも同じように感じておられるのでしょうか?
<キーワード>赤毛のアン・シリーズ第5巻
<あらすじ>アンとギルバートの婚約時代。離れ離れに暮らす3年間にアンがギルバートに宛てた手紙によって、物語は進む。サマーサイド高校校長として赴任したアンを迎えたのは、敵意に満ちた町の有力者一族、人間嫌いの副校長、意地悪な生徒たちだった。持ち前のユーモアと忍耐で彼らの信頼と愛情をかち得たアンが、忠実なレベッカ・デューや猫のダスティ・ミラーとともに、2人の未亡人たちの家・柳風荘で過した3年間を綴る。
<感想>
・赤毛のアンシリーズは、忙しくて疲れたときにぴったりだと思いました。読みやすいですし、ユーモアがありますからね。アン・シャーリーという人物はまったく面白い。その他の登場人物も魅力的ですが、やはり彼女は特別です。本書を読むのは2019年以来の2度目ですが、新鮮に楽しめました。本当にすばらしい小説だと思います。
・短編集のような形式で話ごとに個性的な人物が出てきます。特に、レベッカ・デュー、ソフィ・シンクレア、ミス・ヴァレンタイン、ミス・セーラ、サイラス・テイラー、ミネルヴァ嬢のエピソードが良かったです。