2025年に読んだ本ベストは「オルガ」(ベルンハルト・シュリンク)です。
目次
1 青い城
2 ゼロの焦点
3 猫は鳥を見つめる
5 オルガ
6 愛の重さ
7 秘密機関
8 猫は流れ星を見る
10 朗読者
11 ビリー・サマーズ
<あらすじ>内気で陰気な独身女性・ヴァランシー。心臓の持病で余命1年と診断された日から、後悔しない毎日を送ろうと決意するが。周到な伏線と辛口のユーモアに彩られ、夢見る愛の魔法に包まれた究極のロマンス。
<感想>
・大学生のときに読んですごく良かったので再読。やはり良かったです。内容をかなり忘れていまっていて悲しくなりましたが、新鮮な感動を味わえるのは得ということにしましょう。
・作中に出てくる作家・ジョン・フォスターが内気なヴァランシーを奮い立たせるシーンが良かったです。
ヴァランシーはまさにストーリング師に従おうとしていた。一緒に家へ帰らねばならないのだーそして、諦めるのだ。またもや、ドス・スターリングに逆戻りし、残された何日、いや何週間かを、もとのようなおどおどした、とるにたらない女として過ごさねばならないのだ。それが彼女の運命なのだーこの冷酷な、つきつけられた人差し指に象徴された運命。がなりやアベルが予定された運命からのがれられないのと同様、彼女もこの指から逃げることはできないのだ。彼女は魅入られた鳥が蛇を見つめるように、指を見つめていた。その次の瞬間ー
「恐れは原罪である」突然、静かな、ささやくような声が、遠くー遠くーヴァランシーの意識のずっと奥の方から響いてきた。「世の中のほとんどすべての悪は、その根源に、だれかか何かを恐れているという事実がある」
ヴァランシーはすっくと立ちあがった。まだ恐れに縛られてはいたが、魂は再び自分のものになっていた。心の中の声をいつわってはならない。
・モンゴメリがスターリング家の人々を面白おかしく描写しているので、なんだか嫌いになれません。
<あらすじ>縁談を受け、広告代理店に勤める十歳年上の鵜原憲一と結婚した禎子。本店勤めの辞令が下りた夫は、新婚旅行から戻ってすぐに、引き継ぎのため、前任地の金沢へ旅立った。一週間の予定をすぎても戻らない夫を探しに、禎子は金沢へ足を向ける。北陸の灰色の空の下、行方を尋ね歩く禎子は、ついに夫の知られざる過去をつきとめる。戦争直後の混乱が招いた悲劇を描き、深い余韻を残す著者の代表作。
<感想>
・松本清張(まつもとせいちょう)は、私の地元・北九州出身の作家。私が中学生のときに、松本清張生誕100周年のイベントとして、学校で何かの感想文を書かされた記憶がありますが、何を書いたのかも覚えておらず、おそらく適当に書いたのだと思います。そんな私が清張の魅力に気づくのは、高校生の時。フジテレビ開局55周年特別番組として放送されたドラマ「顔」を見て、松雪泰子さんの怪演に衝撃を受けました。ものすごい作品でしたね。以来、清張の特別ドラマを見たり、朗読を聞いたりしていました。印象的なのは、朗読で聞いた「家紋」。これは恐ろしいお話です。
・悲しいお話です。歴史の悲しい面を感じるという点では松本清張原作の映画「砂の器」に似ています。
・金沢や能登半島の寒く寂しい雰囲気が印象的でした。
・松本清張(あと山崎豊子さん)の作品は大変興味はあるものの、内容が重厚で本を読むのは難しいかなあと思っていたのですが、「ゼロの焦点」はすらすらと一日で読んでしまいました。読みやすく、次のページをめくりたくなる、推進力のあるお話です。
・第3者が語る形で物語は進みます。その語り口が堅苦しくて、いかにも"松本清張"という感じです。そこが好きなんですけど。
・さまざまな描写や言葉遣いから昭和を感じられ、タイムスリップしたような感覚になります。
<あらすじ>新しい家に引っ越してきたクィラランは、シャム猫のココたちと、町で起きた殺人事件の謎を解き明かそうとする。高慢な校長が殺害された事件。ココたちの鋭い観察眼とクィラランの推理力が、事件の真相へと導く。のどかな田舎町を舞台に、猫と人間が織りなすミステリー。
<感想>
・「シャム猫ココ・シリーズ」の第12作だそうです。猫好きのお義母さんが貸してくれたので読むことに。意外にも面白かったです。
・cozy mystery(日常的な場面でのミステリ)という感じで軽く読めました。主人公は莫大な遺産を受け継いだ資産家で、ゆったりとした暮らしが羨ましくもありつつ、読みながら私もくつろいだ気分になれたので良かったです。そういう意味でもcozyでした。
・登場人物が個性的。登場人物がかなり多いのに「この人だれだっけ?」となることが少なく、逆に印象的な人物は多かったです。主人公のクィラランのほか、ポリー、校長、イングルハート夫人、フラン・ブロディなど。
・主人公が飼っている猫(ココ、ヤムヤム)は喋るわけでもないのに、印象的な存在でした。自由で優雅で謎めいていましたね。
・作者のリリアン・J. ブラウンは博識なんだと思います。さまざまな知識が織り込まれていて、刺激的で楽しかったです。
・ミステリは読む頻度は今や年に1-2冊と少ないですが、好きなジャンルです。ただ、残酷な描写は苦手です。友人に勧められた「ストーンサークルの殺人」を最近読んだのですが、残酷すぎて序盤で断念しました。中学生のときの話ですけど、「ダ・ヴィンチ・コード」も最後まで読めませんでしたね。
ミステリで一番好きなのはやっぱりコナン・ドイル作「シャーロック・ホームズ」シリーズですね。アイザック・アシモフ作「黒後家蜘蛛の会」も好きです。中学生のときは東野圭吾の作品が面白くて何冊か読みました。「流星の絆」「麒麟の翼」「聖女の救済」「容疑者Xの献身」など。
今気になっているミステリ作品は、アガサ・クリスティ作「火曜クラブ」、これは安楽椅子探偵の代表ですからね。ハリイ・ケメルマン作「九マイルは遠すぎる」、これも安楽椅子探偵。アンソニー・ホロヴィッツ作「カササギ殺人事件」「メインテーマは殺人」。「黒後家蜘蛛の会」シリーズも久しぶりに読みたいですね。
4「ワインを楽しむ教科書」大西タカユキ
<あらすじ>確かにワインは奥深いものですが、もっと気軽に楽しめるお酒です。本書ではワイン界の異端児、大西タカユキ氏が、「ワイン語」を極力排し、ワインの知識をわかりやすく解説。コミカルなイラストとともに、選び方、楽しみ方を紹介します。家飲み、ショップ、レストランで使える知識が満載です。
<感想>
・お酒は人と外食したときに付き合いで飲むものでしたが、最近になってお酒の味が好きになってきました。ときどき日本酒かワインを食事といっしょに飲みたくなります。日本酒はある程度は銘柄を知っているので悩みませんが、ワインはさっぱり。スーパーにたくさん並んでいるワインの中から自分に合ったものを選べるようになりたくて本を読んでみました。
・分かりやすいです。ぶどうの種類で味が変わること、産地を旧世界と新世界に分けて考えると良いことが分かり、かなりワインを選びやすくなりました。お手頃なワインの選び方の説明もあって助かります。
・内容は幅広いです。私のような初級者から上級者まで楽しめる層はかなり広いと思います。私がワインを選ぶ上では必要ない細かい情報もたくさんありましたが、それらも読み物としては面白かったです。へえ、と思いました。
・日本産ワインの説明もありました。ワインを作っているのは山梨と長野だけではないのですね。日本で開発されたワイン用ぶどうの種類もいくつかあるそうです。あと、ドイツ産のワインも試してみたくなりました。甘口なんですって。
・ワインにまつわる知識として、料理との合わせ方、グラスの選び方、余ったワインの使い道、保管方法まであります。
<あらすじ>北の果てに消えた恋人、言えなかった秘密。貧しい出自も身分差も乗り越え、激動の20世紀ドイツを駆け抜けた女性オルガ。その毅然とした生き方を描く最新長篇。
<感想>
・悲しいストーリーですが、とても良い作品です。
・大切な人を失うオルガの悲しみが自分のことのように思われて、私もしばらく悲しみを引きずってしまいました。一緒に過ごした時間が長いほど様々な思い出が積み重なって、失った後は耐えられないのではないかと思います。ふとした瞬間にその人の記憶が蘇って思いがけず涙が出てくるんだろうと思います。
全然違う作品ではありますが、韓国ドラマ「冬のソナタ」で、大人になったユジンが高校時代に死んだ彼(チュンサン)のことを涙ながらに語るシーンを思い出しました。あのシーンも強い悲しみが胸に刺さりました。
「今までにあなたは誰かを心から愛したことありますか?あるはずないわ。だからそんなことが言えるんです。今まですぐそばで息をしていた人が突然消えてしまうのがどんなものか知ってますか?何一つ変わっていないのにその人だけいない感じがどんなものか、その寂しさが分かりますか?」
・本書は3部構成です。第1部はオルガとヘルベルトが過ごした時間。第2部はオルガが晩年仲良くしていた少年の目線から語られる。第3部はオルガがヘルベルトに宛てた手紙。第3部も良かったですが、第1部の前半が好きです。オルガとヘルベルトの間にある愛情は特別なものに感じられました。特に、二人が樹上の狩人小屋で過ごすシーンが良かったです。
・すばらしい本を読むときは、私が本を読み進めるのではなく、本が私を次のページへ連れていってくれると感じます。この作品もまさにそうでした。特に、数ページ目のヘルベルトが走るシーンから先は本に導かれるように進んでいきました。
彼は、歩けるようになるとすぐに、走ろうとした。一歩ずつでは早く走れないので、片方の足が空中にあるあいだにもう片方も持ち上げては、転ぶのだった。起き上がり、また一歩ずつ歩き出す。そして、またもやこれでは遅すぎると思い、片方の足が着地する前にもう一方を持ち上げて、ふたたび転んだ。起き上がり、転び、また起き上がるーじれったそうに、それでもむことなくやり続けた。歩くんじゃなくて、どうしても走りたいのね、と彼を見ていた母親は考え、首を横に振った。
地面を離れた足が自分に追いついてからもう片方を上げるべきだと学んでからも、彼は歩こうとはしなかった。すばしっこく小幅でちょこちょこと走る。
・作者のベルンハルト・シュリンク氏は著作が他にもたくさんあるようです。特に有名な作品「朗読者」を読んでみたいです。映画化されているとのこと。「愛を読むひと」
・新潮クレスト・ブックスのシリーズは良い作品が多いです。本作の他にこれまで読んで良かった作品は、「緑の天幕」、「通訳ダニエル・シュタイン」、「ミッテランの帽子」。もっといろいろ読んでみたいです。オーディブルのような朗読版があればいいのにと思います。
<印象に残ったところ>
・ヘルベルトがオルガに恋に落ちるシーン。
次にオルガに会ったとき、ヘルベルトは細かく観察してみた。彼女の高くて広い額、力強い順骨。緑の目はほんのちょっと斜めになっているが、すばらしい輝きを放っている。鼻や顎はもっと小さく、口は大きい方がいいだろうか?しかし、オルガが笑ったりほほえんだり話したりするとき、その口はとても生き生きとして、圧倒的な存在感を発するので、その口の上にはこの身、下にはこの顎がふさわしく思えるのだった。それこそいまのように、声を出さずに唇を動かして勉強しているときなどは、まさにそうだった。
ヘルベルトのまなざしはオルガの首とうなじを辿り、胸の上のブラウスの膨らみや、スカートに隠された太腿とふくらはぎの部分で立ち止まり、むき出しの踵と足の上にとどまった。勉強するとき、オルガは靴と靴下を脱いでいたのだ。これまで何度もオルガの踵と足を見てはいたけれど、じっと眺めたことはなかった。くるぶしの横の窪み、踵の丸み、爪先の繊細さ、青い血管。足首や足に、どれほど触れたいと思ったことか!
「何をじろじろ見てるの?」
オルガがヘルベルトを見つめていたので、彼は赤面した。「じろじろ見てなんかいないよ」
二人は向かい合い、あぐらをかいて座っていた。オルガは本を、ヘルベルトはナイフと木切れを手に持っていた。彼はうつむいた。「きみの顔はよく知ってるつもりだったけど」ヘルベルトは首を振り、ナイフで木切れから削り層を飛ばした。「いまでは…」彼は顔を上げてオルガを眺めた。まだ赤面していた。「いまではずっと眺めていられる。きみの顔、首、うなじ、きみの……きみの姿を。こんなにきれいなものは見たことがない」
オルガも赤面した。二人は見つめ合い、目と心だけになっていた。
・狩人小屋でヘルベルトが無限について語るシーン。その後のヘルベルトの野望を暗示させる印象的な対話です。
ヘルベルトはオルガをそっとしておかなかった。彼は究極の問いを発見したのだ。数日後、彼は尋ねた。
「無限は存在するのか?」
二人はまた並んで寝転んでいた。オルガの顔は、両手で支えている本の陰にあった。ヘルベルトは目を閉じ、顔には陽が当たっていた。口には草の茎をくわえている。
「平行線は無限において交わるんだって」
「学校ではそう教えているけど、たわ言だよ。線路をずっとずっと辿っていったらしいつか左右のレールが交わるところに到達すると思うかい?」
「線路をずっと辿っていったって、それは有限でしょ。無限じゃないわ。あんたみたいに走ることができれば話は別だろうけど…」
ヘルベルトはため息をついた。「からかうのはやめてくれよ。ぼくが知りたいのは、有限な人間の有限な生において、無限が意味を持ちうるのかってことだ。それとも、神と無限は同じものなのかな?」オルガは開いた本を腹の上に載せたが、本から手を離すことはしなかった。できればまた本を持ち上げて読みたかった。勉強しなくてはいけないのだ。無限なんてどうでもよかった。でも、ヘルベルトの方に顔を向けると、彼は心配そうに、そして期待を込めて、彼女を見つめていた。「どうしてそんなに無限が気になるの?」
「どうしてかって?」ヘルベルトは体を起こした。「無限であるからには、到達できないんだよな?でも、いまの時代と手段にとって、というだけでなく、そもそも絶対に到達不可能なものって、あるんだろうか?」
「もし到達できたら無限をどうしたいの?」
ヘルベルトは黙り込み、遠くに目を向けた。オルガも起き上がった。彼は何を見ているのだろう?カブ畑。緑の植物と茶色の畝が長い列になって並んでいる。列は最初はまっすぐだが、やがて地になって湾曲し、地平線に向かって、最後は緑地と溶け合っている。離れて立っているポプラの木。一群のブナの木が、明るいカブ畑の海に黒っぽい鳥を作っている。空には雲はなく、太陽はオルガとヘルベルトの背後にあって、すべてを輝かせていた。植物の緑も、木々も、地面の茶曲も。彼は何を見ていたのだろう?
ヘルベルトはオルガに顔を向け、どうしていいかわからなかったので、困ったようにほほえんだ。
・遠距離恋愛時代
自分がヘルベルトの人生のなかで演じている役割は、既婚男性にとって愛人が演じる役割のようだ、とオルガは気づいた。既婚男性は自分の世界のなかで生き、自分のやりたいことをやる。そして、たまに人生の時間を少しだけ空けておいて、愛人とともにその時間を過ごすのだ。だが愛人は、彼の世界にも目的にもまったく関与していない。ヘルベルトは既婚者ではなく、戻っていくべき妻や子どもはいなかった。オルガは、ヘルベルトが彼女を愛しているのを知っていたし、彼が他人に対してできる最大限の歩み寄りを、彼女に対してしてくれているのもわかっていた。他人と一緒にいて感じうる最大の幸福を、彼はオルガと一緒にいるときに感じていた。ヘルベルトは自分がオルガに与えられるものはすべて、彼女に与えてくれていた。
しかし、彼女がほんとうに望むものを与えることは、彼にはできないのだった。
・第3部 オルガがヘルベルトに宛てた手紙
最愛の人、これがあなたに書く最後の手紙です。あなたに別れを告げたいと思います。新しい年は、あなたなしで始めます。もう、自分の周りや自分のなかに、あなたがいてほしくありません。あなたは死にました。もうずっと前に死んだのに、わたしはいまだにあなたと話しています。話していると目の前にあなたが見え、声が聞こえます。あなたは答えてはくれないけど、笑ったり、不満げに文句を言ったり、同意するように呟いたりします。あなたはそこにいるのです。腕や足を一本失った兵士たちの幻肢痛について、耳にしたことがあります。腕や足はもうないのに、まだそこにあるかのように痛むのです。あなたはいないのに、まだそこにいるかのようにわたしの胸を痛ませます。
あなたがまだ生きていたときに愛したように、死んでしまってからも愛することができればーあなたはずっと幻だったのですか?わたしは自分が作ったあなたのイメージを愛していたのですか?あなたが生きていようが死んでいようが関係のないイメージ?
あなたをわたしの人生から追い出すつもりはありません。あなたはわたしの心のなかで一つの場所を占めています。そこはあなたの、あなただけの神殿です。わたしはときおりそこに佇み、あなたのことを考えます。でも、その神殿を閉ざし、そこに背を向けることも可能でなければなりません。そうでないと、あまりに辛いのです。
わたしはよくあなたのことを考えますが、一緒に過ごしたあの時代のことは、もしお互いに年をとっていたら、これほど身近に考えられなかったかもしれません。でも、一緒にあの時代を思い出すことができていたらよかったでしょうね。家の前でベンチに座って、あなたが何かを思い出し、わたしがそれについてさらに何かを思い出し、それから今度はわたしが別のことを思い出して、あなたが話を続けるのです。
日々の家事をしながら、よくあなたのことを考えます。すると、わたしはあなたと話すのです。それは、自分と話すよりもいいことです。
あなたはわたしの伴侶です。早い時期にそうなって、ずっと伴侶であり続けました。わたしはあなたに腹を立て、あなたと喧嘩しますが、だからこそあなたはわたしのパートナーで、そのことを嬉しく思います。
あなたのオルガより
<あらすじ>幼くして両親をなくしたローラとシャーリーの姉妹。ローラは妹を深く愛し、あらゆる害悪から守ろうとした。しかしかえってそのことが、妹の一生を台無しにしていたことを知り、愕然とする。人間の与える愛の犯し得る過ちと、その途方もない強さを描きだしたクリスティーの愛の小説。
<感想>
・メアリ・ウェストマコット名義の作品。
・第1部のローラと、第2部のシャーリーが良かったです。ローラは妹のシャーリーとの距離を悩みながら接しているところが、シャーリーはヘンリーを献身的に愛しているところが印象に残りました。
・タイトルの「愛の重さ(The Burden)」は、ローラの愛がシャーリーにとって重荷であることを意味するのかと思っていましたが、意外でした。
・本編の後に、早川書房が出しているクリスティ文庫の紹介が載っており、ポアロシリーズ、ミス・マープルシリーズと並んでトミー&タペンスというシリーズの紹介がありました。これは大変気になります。
秘密機関
NかMか
親指のうずき
運命の裏木戸
おしどり探偵(短編集)
<あらすじ>戦争も終わり平和が戻ったロンドンで再会した幼なじみのトミーとタペンス。ふたりはヤング・アドベンチャラーズなる会社を設立し探偵業を始めるが、怪しげな依頼をきっかけに英国を揺るがす極秘文書争奪戦に巻き込まれてしまう。冒険また冒険の展開にふたりの運命は?
<感想>
・最近はアガサ・クリスティ作品ばかり読んでいます。「春にして君を離れ」「ナイル殺人事件」(映画)「愛の重さ」。気になっていた「トミー&タペンス」シリーズの第1作「秘密機関」を読みました。
・スピード感のあるミステリでした。(ミステリというかサスペンス?)スピード感に乗せられて、あっという間に読み終えてしまいました。
・トミーとタペンスのコンビがとても良かった。二人とも好きですが、どちらかというとトミーが好きかなあ。
<あらすじ>平和の夏休みを求めて、いつものようにムースヴィルの別荘にやってきた元新聞記者のクィラランとシャム猫ココ。独立祭パレードを前に折りしも静かな村はバックパッカーがUFOに拉致されたという奇妙な噂で持ちきりだった。それに呼応するかのように、ココは夜空を見上げてばかり。やがて湖から失踪した旅行者の死体が上がり、ヒゲに震えを感じたクィラランは調査に乗り出す。シャム猫ココが星に訊ねた真実とは。
<感想>
・「猫は鳥を見つめる」が面白かったので、義母が貸してくれた同じシリーズの作品を読むことに。本作も面白かったです。このシリーズはよく練られていると思います。ミステリとしてのストーリーはシンプルで特筆すべきところはないんですけど、数々の小さな挿話がすごく面白いんですよね。あとキャラクターそれぞれが個性的で魅力的。完成度が高い小説だと感じました。
・翻訳も良いです。羽田詩津子氏の翻訳作品はシャム猫ココシリーズが初めてだと思います。このシリーズはすべて彼女が翻訳を担当しているのですね。
9「BRUTUS 東京大全(2025年 4月15日号)」BRUTUS編集部
<あらすじ>いま世界中からツーリストを集める東京は、目利きな人たちが多く集う都市でもある。今回は、そんな目利きたちが自分なりに楽しんでいるアドレスを徹底的に教わる特集だ。100人いれば100通りのTOKYOがある。日々歩いていても、知っているようでまだまだ知らない。そんな巨大都市の魅力を再発見しよう。
<感想>
・私はかなりのインドア派だったのですがここ数年で外出も楽しくなってきて、東京の見どころをもっと知りたくなっていました。そんなところに、YouTubeでこの特集を見つけて買ってみました。普段、雑誌は買わないのですが、この特集は面白かったです。
・良かったです。いろいろと気になったところがあったので、Googleマップにピンを立てておきました。
・内容は充実しています。TOKYO MANIAというビビッドの黄色を基調とした特集は、マニア92人がそれぞれの領域からおすすめの場所を紹介するという企画で、かなりマニアックです。(豆腐、ネオンサイン、暗渠などまでありました)
・たくさんの人に取材していて手が込んでいます。作り手の熱意を感じました。
・Kindle版を買うか迷ったのですが、久しぶりに実物の本を買いました。表紙と裏表紙の手触りが普通と違います。表面はざらざらしていて、青く抜かれた表紙の文字だけがつるつるしていて、強いこだわりを感じました。触っていても気持ちよかったです。
・私は京都も好きなので、京都の見どころをまとめた雑誌か本も買ってみたくなりました。
<あらすじ>15歳のミヒャエルは、母親といってもおかしくないほど年上の女性ハンナと恋に落ちた。ハンナはなぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だがハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落していた。過去に犯した罪をどのように裁きどのように受け入れるか。
<感想>
・今年の初めに読んだオルガがとても良かったので、同じ作者の別の作品を読むことにしました。
・考えさせられるお話でした。
・ネタバレを嫌う方は読まれないほうが良いですが、訳者あとがきがこの本のポイントをよくまとめているので引用します。
訳者あとがき
小説の冒頭で描かれる十五歳の少年と彼の母親のような年齢の女性との恋愛はたしかにセンセーショナルなテーマではあるが、ナチス時代の犯罪をどうとらえるかという重い問題も含んだこの本がここまで国際的な成功を収めた背景は、いったいどこにあるのだろうか。この物語の一番の特徴は、かつて愛した女性が戦犯として裁かれることに大きな衝撃を受けながらも、彼女を図式的・短絡的に裁くことはせず、なんとか理解しようとする主人公ミヒャエルの姿勢にあるように思われる。彼女の突然の失踪に傷つき、法廷での再会後に知った彼女の過去に苦しみ、しかしそれでも彼女にまつわる記憶を断ち切ることはせず、十年間も刑務所に朗読テープを送り続けたミヒャエル。彼の律儀さ粘り強さには、ある種のドイツ人らしさが表われているように思う。前の世代が犯したナチズムという過失を見つめ続けることを余儀なくされ、それによって苦しむという体験は、敗戦後の民主主義教育を受けて育った彼の世代に共通のものだといえよう。しかしミヒャエル自身は「強制収容所ゼミ」に入って親の世代を糾弾する自分にかすかな良心の呵責を覚え、その後盛んになる学生運動に対しても距離をとり続けるのである。
過去に犯した罪をどのように裁き、どのように受け入れるか。この本で描かれている裁判の時期は一九六〇年代半ばと考えられるが、西ドイツでは実際に一九六三年十二月から六五年八月にかけていわゆる「アウシュヴィッツ裁判」が開かれ、かつての収容所の看守たちが裁かれた。初めてドイツ人がドイツ人の戦争犯罪を裁いたこと(戦争直後のニュルンベルク裁判では連合国がドイツを裁いた)、収容所での実態が初めて法廷で明らかにされたことで話題になったこの裁判の模様は、ペーター・ヴァイスが一九六五年十月初演の『追究』において戯曲化している。
・様々な話題に言えることですが、一般的な問題が身近になる瞬間というのがあると思います。例えば、自分の友達や家族のなかに障害者がいたら、「障害者の社会参画」という問題がリアルに自分ごとに感じられると思いますし、同じように、身近に同性愛者やシングルマザーや虐待を受けた人がいたら、彼らに関する社会的な問題がすごく難しくて重要な問題に感じられると思います。
ミヒャエルにとってはハンナの存在によって、ナチズムがそれまでとはずいぶん違った形で感じられた。そしてミヒャエルの視点を通して、私もナチズムが簡単に裁ける問題ではないことを感じました。
訳者あとがき
この作品では看守としてハンナが犯した罪だけではなく、おそらくは貧しさゆえに満足な教育を受けることができなかったハンナの境遇が重要なポイントになっている。それは戦争犯罪に対する一種の免罪符ととれないこともない。もし条件が違っていれば、ハンナは収容所の看守になることはなかっただろうし、裁判も彼女に不利にはならなかったかもしれない。
・世の中の人々を簡単に善人と悪人に分けられるものではないとつくづく感じます。
文庫版訳者あとがき
この作品からは、自らは戦争の記憶がないまま、ナチ時代の過ちを徹底的に批判する歴史教育を受け、ドイツの過去を負の遺産として背負わされ、他の国に旅行するたびにドイツ人であることに引け目を感じざるを得なかった、シュリンクたちの世代ーそれは後にさまざまな旧(ふる)い権威に対して反旗を翻し、学生運動の中心となっていく、いわゆる「六八年世代」でもあるーのとまどいが率直に伝わってくることも確かである。と同時に、自分たちの前の世代と戦争との関わりをもっと深く理解したいという、彼自身の願いも感じられる。
・前の世代に対する思いというものをあまり考えたことがなかったのと、ドイツ人は負の遺産をすごく重く受け止めていることが感じられて、興味深かったです。
文庫版訳者あとがき
シュリンクは二〇〇一年に週刊誌「シュピーゲル」に寄稿したエッセイのなかで、過去がトラウマとなって自由な思考を妨げることについて否定的な見解を示しつつも、過去について考える必要性を強調して、次のように述べている。
(中略)「過去を片づけてしまうことなどけっしてできない。過去のおぞましさが、けっして忘れられ得ないほど甚だしいからというだけではない。過去が、わたしたちの文化的・文明的なあり方を脅かす事柄について気づかせてくれるから、というだけでもない。過去は、あらゆる道徳的なテーマや問題をはらむ素材でもあるのだ」
・私は大学生くらいから「戦争」というテーマが頭から離れなくて、折に触れて過去の戦争に関する本を読んだり映画を見たりしています。「過去を掘り返しても今の状況が前進するわけでもないのに、なぜこれほどこだわるのだろうか」と自分でもよく分からないなと思う気持ちもありますし、一方で過去を理解するのはすごく意味のあることにも思えます。定まった答えはありませんが、ときどき考えてしまいます。
文庫版訳者あとがき
「あなたの愛した人が戦争犯罪者だったらどうしますか?」という問いかけは、国が違う読者にとっても、戦争を知らない若い世代にとっても、大きなインパクトを持つのではないだろうか。
・ミヒャエルは自身に対してすごく正直で真面目すぎますけど、そこに好感が持てました。そういう人は生きにくいと思いますが、私は好きです。
・この小説は映画化されているそうです。「愛を読むひと」
・本作のなかで、ホロコーストに関する作品として「ソフィーの選択」という映画が紹介されていました。メリル・ストリープが出演しているそうです。気になります。
・ナチスによるホロコーストに関する作品は、「ライフ・イズ・ビューティフル」と「シンドラーのリスト」を見たことがあります。「ライフ・イズ・ビューティフル」は悲しみの中にも明るい希望を感じられるのでおすすめできますが、「シンドラーのリスト」はとにかく残酷なので映画を見る前に覚悟が必要です(スピルバーグ監督のホロコーストに対する強い思いを感じました)。私は二度と見られないと思います。
<あらすじ>狙いは決して外さない凄腕の殺し屋、ビリー・サマーズ。依頼人たちには、銃撃しか能がない男を装っているが、真の顔は思慮深い人間であり、標的が悪人である殺ししか請け負わない。そんなビリーが引退を決意して「最後の仕事」を受けた。収監されているターゲットを狙撃するには、やつが裁判所へ移送される一瞬を待つしかない。狙撃地点となる街に潜伏するための偽装身分は小説家。街に溶け込むべくご近所づきあいをし、事務所に通って執筆用パソコンに向かううち、ビリーは本当に小説を書き始めてしまう。だが、この仕事は何かがおかしい。ビリーは安全策として、依頼人にも知られぬようさらに別の身分を用意し奇妙な三重生活をはじめた。そしてついに運命の実行日が訪れる。
<感想>
・スティーブン・キングの作品は怖いしグロテスクなのでめったに読みませんが、あらすじが面白そうだったので読むことにしました。いや、とても面白かったです。
・ストーリーもキャラクターも描写もすべて良かったです。キングは小説の名手ですね。特に描写が良かった。人物も設定もリアルに感じました。
・裏社会のストーリーが目まぐるしく展開していく感じは、ジョン・グリシャムの作品に近い印象を受けました。特に上巻のストーリーが良かったです。
・主人公が、過去にイラク戦争に従軍した経験が描かれています。イラク戦争は私が小学生の頃だったので記憶になく、これほどひどい戦闘だと知りませんでした。あとがきでキングは参考文献として「ファルージャ栄光なき死闘」を挙げていました。気になります。
・スティーブン・キングの作品は、キングが自身の娘に向けて書いたファンタジー「ドラゴンの眼」は好きですけれど、それ以外はなかなか気が進みません。映画はいくつか見ました。どれも印象的な作品ですが見る前に覚悟が必要です。「ショーシャンクの空に」、「グリーンマイル」、「スタンド・バイ・ミー」。
12「ウクライナ戦争は世界をどう変えたか」豊島晋作
<あらすじ>なぜロシアはウクライナ侵攻へ突き進んだのか?中国の台湾侵攻リスクに日本人はいかに備えるべきか?ウクライナ戦争以後の世界を考える上で必読の1冊。
- <目次>
- ・第1章 “終末の時代”再び-ウクライナ戦争と核戦争シナリオ
- ・第2章 ウクライナ戦争はなぜ起きたのか-「ロシアの論理」を知る
- ・第3章 戦時下のウクライナから
- ・第4章 “ロシアと戦う国々”の論理
- ・第5章 プーチン大統領暗殺は起きるか?
- ・第6章 中国・習近平の「台湾侵攻」
- ・第7章 試される「日本の論理」 -想定される“動揺”シナリオ
<感想>
・私は経済に関するニュースを追いかけるのに、日経新聞を読まない代わりに、World Business Satellite(WBS)という番組を見ています。この番組は平日の夜に地上波のテレビで見られるのですが、私はテレ東BIZの会員に登録して(月千円ほど)PCで2倍速で見ています。この番組はすごくわかりやすいです。見ているうちにメインキャスターの豊島晋作という方がすごく気になってきました。よく海外に取材に行って流暢な英語でインタビューしていて「この方は何者?」と思って調べてみると、東京大学大学院法学政治学研究科を修了、戦争に関する著作が2作、WBSの他に彼の番組「豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス」もお持ちということです。試しに、テレ東ワールドポリティクスの「なぜ戦争は起こるのか?今さら聞けない現代国際政治の基礎とは」という回を見てみたら大変勉強になったので、もっと彼のコンテンツを知りたくなりました。
・私は戦争と平和というテーマに興味があるのと、ロシアがウクライナに侵攻する背景をどう理解したらよいか気になっていたので、読み始めました。
・どの章も大変勉強になりました。
・第1章はウクライナ戦争について様々な観点から解説しています。サイバー戦や核兵器シナリオなど。特に、朝鮮戦争など過去の戦争で核兵器の使用が検討されていたという話が衝撃でした。
・第2章はなぜプーチンが戦争を始めたのか、ロシアの論理について解説しています。私が一番知りたかった内容です。完全な納得まではいきませんが、ある程度ロシアの見方が分かりました。第2章について、夫のケイトさんとPodcastで話しました。かなり興味深いエピソードになりました。
・第4章はNATO、フィンランド、バルト三国、アフリカ諸国にとって、ウクライナ戦争がどう見えているか、過去の経緯を踏まえて書かれています。ニュースで、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、アメリカ、ドイツ・フランス・イギリス、の立場は報じられていましたが、それ以外の国の立場に触れられていなかったのでこの本で初めて知りました。
・第6章、第7章では、中国の台湾侵攻について。台湾戦争は起きるか、起きるとすればどのような戦いになるか、日本は参戦するか、など。起こり得るケースが詳細に書かれていて、戦争の可能性をリアルに感じました。台湾戦争だけでなく、北朝鮮の軍事侵攻やロシアの脅威についても書かれており、日本はかなり危険にさらされているのだと分かりました。外交によって戦争を回避するのが一番重要ですが、日本の防衛や周辺国との協力体制についても真剣に考えなければならないと思いました。
・豊島氏の著作「日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける」も読みたいですし、「豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス」の過去回も見ていきたいです。
<あらすじ>
<感想>
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